プロローグ
時は、元和二年(一六一六年) 江戸城内において一人の老人が逝去の寸前にあった。
「おのれ、三成・・・、まだ儂を・・・」
同城内、湯あみをしていた千姫が何かを感じ取って顔を上げる。
立ちあがった千姫が、湯あみ衣を脱ぐとその乳房の下にまるで家紋(三つ葉葵)のような痣が浮かびあがっていた。
「今、おじいさまが・・・、逝ってしまわれた・・・」
同時刻
真田山長国寺・大蓮寺・天徳寺・松岬神社・長谷場御墓・大徳寺三玄院・瑞雲寺 各々の最も奥に祭られた墓碑・石碑に施された家紋が怪しく光った。
「おじいさま・・・」
眼を閉じた千姫の体は眩い光に包まれ、遥か上空へとその光が伸びる。
それに呼応したかのように、全国7つの石碑からも7色の光が天空へと伸びた。
「殿っ、お気を確かに・・・」
征夷大将軍の逝去を目の当たりにした側近が、ふと家康の枕元におかれた書付に目を落とす。
『齢十八の時に家紋の痣を持った8人の女が集まる時、我が徳川家に対して災いをもたらすであろう』努々(ゆめゆめ)忘るるなかれ。
時は現代・・・
「さぁ、行こうっ!」
一人の少女が高く手を突き上げた。
「こんな緊張って無かったよね」
「ヤバいくらいにテンション高くなってるよ」
「だいじょーぶ、いつも通りにやれば良いんだから!」
「私達が楽しめば、お客さんも笑顔になってきたじゃん」
各々が万感の思いを込めて、次々と上げた手を重ね合わせる。
「さぁ、このアイドル甲子園もいよいよ最終局面を迎えようとしております」
ゴールデンマイクを片手に、アナウンサーが実況を始めた。
「ファイナリストに残ったのはこの二組。中国からの刺客、【火炎少女109】、その実力は折り紙付き、トップ独走かと思われていたのですが・・・。
なんとその行く手を阻んだその対抗馬はまさかの! 【温泉アイドル!】
一風変わった芸風ですが、ここまで上り詰めてきた実力は本物です。
ダークホースと言われ続けてきたものの、まさかまさかの大躍進!
歌って踊るだけがアイドルじゃない、全世界の人たちに温泉の魅力を知って貰いたい、その一心で突き進んで参りました。
さあ、満を持しての登場です。
東京テルマエ学園【ムーラン・ルージュ】!!!」
客席からは割れんばかりの拍手と大歓声が上がる。
それぞれの推しの色を灯したサイリウムの光が暗がりの客席を照らしている最後部に白髪白髭の老人がいた。
「ゆかりくん、手筈は?」
「はい、全て抜かりなく」
「きみのような優秀な配下を持つと楽だねぇ」
白髪の老人がにやりと笑った。
「あちらもそろそろですね」
ゆかりと呼ばれた女性が腕の時計に目を落としながら答える。
「この盛大な花火が私たちの成功を祝ってくれているようだ」
少女たちの爽やかな舞台と裏腹にどす黒い陰謀の渦も加速し始めていた。