【小説】東京テルマエ学園 第2章 15話「テルマエ学園に新米教師現る」 前編

慌ただしく毎日が過ぎ、気がつけば4月――テルマエ学園も2期目を迎えようとしていた。

「こんな怪しげな学校、私達の他に入学する子なんていないと思ったけどさ」

洗濯物を干しながら外を眺め、アキは笑った。眼下には、去年の今頃アキが目の当たりにした光景が広がっている。入学受付を済ませて待機中の人がひしめき合い、案内されたパラソルの下では皆少し硬い表情でドリンクを飲んでいた。

時間帯と天気によってはまだ肌寒いことに変わりないが、幸いにも今日は天候に恵まれ、青空が広がっている。

「何か、普通に新入生たくさん来たね。びっくりしたよ」

「分かるー」

アキの隣に立った七瀬も笑った。

「志願者は去年の倍以上だったって噂だよ」

「いわくありげな学園にしか見えないのにねー」

「猿からチラシもらって入学決めたあんたが言う?」

アキの額を指で小突き、七瀬は苦笑を浮かべる。

アキは地元の地獄谷野猿公苑付近に住む猿の『タロ』が持っていたチラシを元に、このテルマエ学園に入学することを決めたのだ。

今思えば危険な賭けにもほどがあるし、その話に乗った七瀬もどうかと思う。

実をいうと、現実的に経営立て直しを考えるのならば普通に経営学を学べる大学に進学すべきだったと今でも思うことがある。

東京に来るいい口実だったと言えばそれまでだが。

新入生達が次々と会場へと誘導されていく中、去年のド派手はセレモニーがふと脳裏を過る。

「今年もあれやるのかな」

アキが吹きだすと、つられて皆も吹いた。

「もしかして、サンバ隊?」

「あと焚きすぎのスモークね」

「極めつけが学園長のキメ台詞、『馬鹿げた演出はしなくてよろしい』」

「それね。でも今年はちゃんと打ち合わせしてあるかもよ。去年の反省を踏まえて」

ちなみに後から新入生に聞いた話では、今年度のセレモニーではサンバ隊はお役御免、その代替を務めたのは水芸一座らしい。派手で寛美、見栄えが良いからだという単純な理由だ。そのために大掛かりな仕掛けを用意し、会場を水浸しにしたに違いない。

新入生達は無駄に派手なセレモニーに度肝を抜かれたとか何とか。

それは最早、代々踏襲されていく儀式の一環となりつつあった。

「あーでも、後輩ちゃん達がたくさん来てくれてよかったかも」

「何で?」

「アイドル部、今6人だけでしょ? 地獄のダンスレッスンを受けているとはいえちょっと心許ないというか……。もっとたくさんいたほうが賑やかだしいいんじゃないかなーって思って」

「うーん……そう、かな」

七瀬はつい唸った。

七瀬としては、これ以上見知らぬ人間が入ってくることに多少なりの抵抗がある。

今のメンバーは汐音の地獄のレッスンを耐え抜いたという絆で結ばれているし、元々仲が良かったこともあって居心地がいい。

アイドル甲子園の規定では特にチームの人数の決まりはない。一人で参加しても良し、大人数でも良し。ならば別に、これ以上人数を増やさなくとも構わないのではないかという気もする。

アイドル甲子園に出るのは、渡も言っていた通り、地元の温泉のPR――復興を目的とすることが大きいからだ。何が何でも優勝したいわけでもない。確かに優勝すれば目立つ。そうなれば当然注目され、渋温泉の広報活動の幅も広がる。だが、そもそもアイドルを目指しているわけではないので、上位に食い込みさえすればいい。

それに、人数が増えればそれだけ面倒ごとも増える。

汐音からダンスレッスンの挑戦状をたたきつけられ、皆の支えもあり地獄のような特訓を何とか乗り切り、アキは汐音に認められた。

今でさえまとまってきたが、すんなり事はうまくいっていない。汐音は相変わらず皆を振り回すし、圭は静かに切れている。

アキはリーダーだ。

何かトラブルが起これば、事態収束の責任はアキへと振りかかる。どこまでも人の良いアキのこと、何でも一人で背負いこんでしまうに違いなかった。

そんな七瀬の心配をよそに、アキは呑気だった。

「入学式が終わったら、すぐに部活の勧誘合戦が始まるでしょ? 皆、部の存続をかけて必死に勧誘するだろうし、私達も頑張らなきゃ!」

アイドル部なんて今年のアイドル甲子園さえ終わってしまえば別に存続させなくてもいいのでは――とそこまで出かかった言葉を飲み込んで、七瀬は答えた。

「そうだね、頑張ろう!」

小難しいことは抜きにして、七瀬はただアキを支えたい。

アキが七瀬にそうしてくれるように。

ちなみに志願者が殺到した理由は、TVやSNSで学園の誤った情報が発信されまくったおかげだった。

学園祭ではサンバ、実地研修は温泉旅行並、果ては混浴で男女の別なく過ごせると聞けば、多少の邪な念を抱いて入学してやろうと考える者がいるのも頷ける。更に八郎が自主制作したショートムービーがSNS上で密かなブームとなり、それを視聴した者が美少女達とのあれこれライフを想像してやってきたらしい。志望動機で臆面もなくそれを言ってのけた阿呆――いや、猛者がいるというのだから間違いないだろう。

新入生を見る限り男女比にそこまで差はないように見えるが、願書受付の段階では圧倒的に男が多かったらしい。

「どう、優奈。いい男いそう?」

「どうかなー。どれもこれも普通ね――ってか、何で私に聞くわけ?」

言いながら、入学式を終えて学園内の案内をされている新入生を検分していた優奈は苦々しく汐音を振り返った。

「いやー、わたしもそろそろ彼氏くらい欲しいなーなんて」

「フンッ、あんた、男の一人もいないわけ? 全くいつまでもお子様ね」

「そーなの、お子様なの。だからさ、優奈に男の鑑定任せたら絶対一番じゃん? そういうことに関しては頼りになるしさぁ」

「まあね。よく分かってるじゃない。仕方ないわね、黙ってそこで見てなさいよ」

「あ、あれとかどう?」

汐音が指さしたのは、一人和装姿の男性だ。

背筋をぴんと伸ばし、凛とした雰囲気を纏っている。遠目からではその顔は分かりにくいが、少なくとも造形は整っているように見えた。

その男にゆかり女史が近づく。会話の後、頷いて連れて行かれる。

優奈はあっと声を上げた。

「あれ、新しい講師なんじゃないの?」

「今年開講するっていう、お茶の作法の?」

京都から講師がやってくるという噂は、既に生徒の間に広まっていた。

お作法と茶道を教えてくれるというのだから、みやびな大和撫子を彷彿とさせる女性講師を想像していただけに男性が講師だと知り、室内に激震が走る。

「ホームページ見てみたら? 顔写真付きで載ってるから」

言われて、皆同時にスマホを取り出す。

テルマエ学園ホームページには、確かに講師の名前と顔が写真付きで掲載されている。

それは今年入ってきた講師も例外ではない。

「あったよ、これじゃない?」

いち早く見つけた萌が皆に画面を見せる。

そこには切れ長の目が涼し気な凛々しい男の画像が映っている。名前は『松永 団』。裏千家の免許皆伝の資格も持ち、趣味は武芸とある。

「へー、結構イケメン。お金持ってそう」

「これ、男の人だよね。お肌すごい綺麗」

「何かいい匂いしそう」

「無修正でこれならかなりいいと思うわ」

年頃の女子としては、イケメンに教わるというだけでテンションが上がった。

茶道と作法の講義が俄然楽しみになったところへ、萌が水を差す。

「分かんないよー、今は男も女も盛る時代だからね。うちの兄貴も、若い女子を釣るために球団ホームページで色々いじくりまわされたみたいだし」

優奈は萌を軽く睨んだ。

「翔平は素でもいい男なんだから、余計なことしないで欲しいわ。悪い虫が付いたらどうしてくれるのよ」

「悪い虫ねえ……あたしにとっちゃ、優奈も――って冗談だよ、そんな怖い顔しないでってば」

今にも掴みかかってきそうな優奈をどうにか宥めすかして、萌はそそくさと逃げ出した。

「ねえ、置屋って何?」

プロフィールのところに記載されたそれを、アキが質問する。

「アキの嬢ちゃん、置屋も知らねェンかい」

世の中の大抵のことは知っている穂波が説明し始めた。

「置屋っていうのは、遊女とか芸者とかを抱えてる家のことだよ。そんで、料亭とかお茶屋とかに芸者や遊女を差し向ける。簡単に言やあ、芸能プロダクションみたいなもンでェ。で、この旦那は京都の置屋の息子ってわけだ。礼儀作法にゃあ相当精通してるだろうなァ」

「へー、そうなんだ。穂波さんって本当に物知りだね」

目を輝かせるアキに穂波は気をよくした。

「へへっ、わかんねェこたァこの穂波姐さんに何でも聞きなさんな」

「うんうん、おばあちゃんの知恵袋みたい!」

やり取りを聞いていた七瀬は一人呟く。

「いや、別にそれくらいググればよくない……?」

「――あとは、ご存知かもしれないけど、うちの学校には温泉が併設されているの。源泉かけ流しの天然温泉。テルマエ学園の生徒や講師のみならず、一般にも開放されているお風呂よ。あなたも一度、時間がある時に入ってみるといいわ」

ゆかり女史から学園内の施設の説明を受け、新任講師の松永 団は頷いた。

「ざっとこんなものかしら。何か質問はある?」

ゆかりに見つめられ、松永は首を振った。

「大丈夫です」

「そう、飲み込みが早そうだから助かるわ。あなたの世話役になったのはいいんだけど、このところ忙しくなっちゃったから」

ゆかりは学園で教鞭を振るう傍ら、混浴番組のコメンテーターとしても活躍している。というよりは、本業は講師ではなく混浴コンサルタントである。

去年は学園が創立したばかりということもあり、講師として檀上に上がることが多かったが新しい講師陣を迎えた今年度からは、本業のほうに熱を入れられそうであった。

「掛け持ちとは大変ですね。流石やわぁ。うちも見習わなあきまへんなぁ」

「まあ、引き受けちゃった以上仕方ないわ。ここにきてしわ寄せが来たのは、ただ私のスケジュール管理が悪かったからよ」

組んだ腕の上に大きな胸が重くのしかかっている。ゆかりの顔には僅かに疲労の色が見えた。

「私は2期生のC組を担当しているけれど、新任のあなたがクラスを受け持つことはまずないわ。うちはゼミもないし、生徒と関わるのはせいぜい講義の時くらいだから安心して。慣れてきたら実地研修の引率をお願いすることもあるかもしれないけれど、当面は作法と茶道の講義だけになるでしょう」

「分かりました。――いうてもゆかり先生。ここの生徒さん、皆さん実家は旅館やホテル経営してはるんやろう。うちん方が皆さんから勉強させてもらわなあかんでしょうね」

創立時に声をかけられたのならばともかく、今更という気はしていた。

親から厳しく躾けられてきた松永にとって作法は真っ先に習うべきことだったし、他所に行っても恥ずかしくない振る舞いを身に着けるには一年やそこらでは足りない。

茶道にしてもそう。あれは奥が深い。

付け焼刃でどうにかなるものでもない。

ゆかりは松永の皮肉の効いた言葉に苦笑を浮かべた。

「そうかしら。まあ、あの子達を見たら松永先生もびっくりすると思うわ」

話しながら学生寮の方へと足を向ける。

講師が寮内に踏み入ることはまずないだろうが、万が一に備えて内部構造を把握しておく必要がある。

学生寮のゲートをくぐりぬけ、男子寮へと入った。

男子と女子の構造は一緒だ。男子の方さえ把握しておけば何とかなる。

空き部屋に入り、一通りの説明を受ける。ベランダに出たところで強風が吹きつけた。

春先は風が強い。

隣のベランダの洗濯物が風に煽られ、吹き飛んでいきそうになっている。

「男子寮の上の階が女子寮。男子は女子寮への侵入を固く禁じられているわ。破ったら罰則。先生も不逞の輩を見つけたらペナルティを言いつけていいから」

「分かりました」

松永は確かめるように上を向いた。

その時だった。

ひらり、と風に煽られて透け感のある布切れが落ちてきた。それが丁度松永の顔面に落ちて、謀らずとも被る格好になった。

フローラルな洗剤の香りが漂い、つい、すんと匂いを嗅ぐ。

「なんや、この布切れ……?」

松永が呟き、それをつまみ上げたところで上階から叫び声が上がる。

「やだ、どうしよ! パンツ飛ばされちゃったー!!」

「もー何やってんの、アキ!」

「もしかしてー、男子寮の方に落ちてたりしてー」

ベランダで騒ぐ女子の話を聞き、松永はまじまじと布切れを見た。

それは紛れもなく、パンツの形をしていた。

透け感のあるピンクの生地、ふんだんにあしらわれたレース。渡にからかわれて以降、ちょっと背伸びして大人の下着を買うようになった温水アキのパンツである。

「……!?」

それをどうしたらいいのか分からず固まっていると、更に驚愕すべき言葉が降りかかる。

「すみませーん、男子のみなさーん。C組アキのパンツを発見した方がいらっしゃいましたら、教えてくださーい」

「ちょっと、汐音ちゃんやめてー! そんな大声で叫ばないでー!」

「で、飛ばされたのはどんなやつ?」

「ピンクのレース……っていい、そんなの言わなくていいから!」

奥ゆかしさは?

恥じらいは?

松永は戸惑い、パンツを握りしめた。すると、上階から明るい声が投げかけられる。

「あ、そこにいるの、新しく来たせんせーですかぁ? もしかして、握りしめてるそれ温水アキのパンツじゃありませんかー?」

「汐音ちゃーん」

泣きそうな声が続く。

見上げれば、ショートカットの子と、ツインテールの美少女がベランダからこちらを覗き込んでいる。

固まる松永に気づいたゆかりは、松永が握りしめていたそれをひょいと引き抜くと、やれやれと頭を振る。

「とにかく、皆をよろしくね先生」

作法・茶道講座が開講するにあたり、同時に、芸妓講座が特別開講となった。

アキ達は都内にあるお座敷の一室に通されていた。

お座敷の前方には金屏風が立てられ、床の間に紅白梅に鶯の見事な掛け軸がかけられている。そこに添えられた生け花は桜。御抹茶をたてられる用意がされていた。

最初は生真面目に正座をしていたアキも、なかなか先生がやってこないのでそのうち足が痺れて、つい楽な胡坐をかいてしまう。今日はスカートではなくガウチョパンツだったし、スカートだったところで気心の知れた仲間しかいないのだから多少パンツが見えても気にしない。一度、クラスでおっぱいぽろりを経験した身としては平気だった。

全員がようやくそろい、いつものメンバーで談笑をしながら待っていると、前方左の襖から松永がしずしずと入ってくる。

間近でみればその端正な顔立ちがはっきりと見て取れた。

ネットで見るより実物はかなりいい。

まず初めに松永が礼をして口を開いた。

「皆さん、初めまして。今年から作法・茶道講座を担当します。松永団と申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

礼を返し、挨拶をする。

顔を上げるとアキと松永の視線がばちりと合った。アキが愛想笑いを浮かべると松永の表情が途端に強張り、顔から表情がすっと消える。

アキはその反応に少なからずショックを受けた。しょぼくれるアキを尻目に、汐音がはいはいと手を挙げた。

「せんせー、彼女とかいるんですか?」

それは興味深げに、他の生徒達も松永を見た。

「今は質問の時間やあらしませんえ?」

「わたし、気になったらすぐ聞きたい派なんですよー。せんせーと仲良くなりたいし!」

松永は溜息をつく。

「嬉しいこというてくれる。皆さんもさぞや聞きたいことやろうと思いますわ。高い授業料払うてまでうちに興味持ってくれはったんやしなあ? さぞや皆さん、お金持ちなんやねえ」

流し目で見透かされ、一同は押し黙った。

いけず。

そういう言葉がぴったりだった。

その流れで講義が始まる。

お茶会の作法について一通りの説明をし、まずは松永が茶を点てる。

お点前が進んだところで松永からお菓子が配られ、隣の生徒に「お先に」と一礼をし菓子を食べ、「お点前頂戴いたします」と運ばれてきた茶を飲む。

大体の生徒はお茶の作法を心得ている。

実家の旅館でお点前をたてている生徒もいれば、幼少の頃から習い事の一環として茶道を嗜んできたという生徒もいる。

一方、アキはお茶の作法がよく分からなかった。

とにかく見様見真似、周りに合わせてやってみるものの、その行為に何の意味があるかまでは全く分からない。茶碗を回すのも何故か分からず、回し過ぎて正面から口をつけてしまった。

おかしな行動をとるたびに松永に溜息をつかせる。

作法・茶道の講義はアキにとって鬼門そのものだった。

そして立て続けに行われた芸妓講座。

「講師を紹介します」

松永の合図で入室したのは、色鮮やかな着物と見事なかんざしで髪結いした美女だった。白塗りの面はともすればのっぺらぼうのように見えるというのに、彼女の顔立ちの美しさを際立たせていた。

「佳つ葵と申します。松永先生とは長い付き合いで、今日はえろう貴重な体験させてもらいます」

口元を袖で隠し、葵は艶やかに笑った。

京都花街では有名な一流芸妓『佳つ葵』こと花咲葵。

彼女は新任講師松永の幼馴染で、舞妓上がりの芸妓である。

男子達は途端にテンションが上がった。特に八郎と二郎は鼻の下を伸ばしっぱなしである。

葵の講義は芸妓の成り立ちと歴史から始まった。更には舞やお座敷遊び、唄や三味線の実演。それは語りつくせないほどすさまじく、その場の全員が圧倒された。脳裏に焼き付いたその光景、体験を、常人では言葉にできない。

最後の質問受付で葵が皆から質問攻めにあう中、アキは意を決し、ずっと引っ掛かっていたことを質問する。

「あの、芸妓さん達って、えっちなこともするんですよね? お金を沢山いただくとはいえ、お座敷のたびにそうなると辛くないですか……?」

葵の眉がぴくりと跳ねる。

「お座敷のたびに床入りするんか、言うことどすか?」

「床入り……はっ、ベッドイン! そう、それです。『お殿様、おやめくだされ。あーれー』ってこう、帯をぐるぐるはぎ取られて『ぐへへ、よいではないか良いではないか』っていうあれ」

「ちょっとアキ! 何馬鹿なこと聞いてるのよ!」

七瀬に引っ張られたが、答えを聞くまでアキは動くつもりがない。辛いことをやっているだろうに、それでもお座敷に立つ彼女達のことを知りたかった。

葵は苛立たし気にはっと短く息を吐いた。

「うちら芸妓とそこらの遊女が同格や、そう思うてはるん?」

「違うんですか?」

アキは純粋な眼差しで問いかけた。

吉原遊郭はアキでも知っている。芸妓もそれと同様に、身売りの娘が沢山つどい、泣く泣く身体を売るのだと思っていた。

「うちの話はよっぽどつまらなかったと見えますなあ。これはえろうすまんことをしてもうたわ」

額には青筋が浮かんでいる。

話を聞いていなかったのかと遠回しに怒られたのだが、アキには通じない。

「つまらなかったなんてとんでもない! 語る言葉を持たないだけです!」

胸を張って答えるものだから、葵も心底呆れかえった。

つづく