【小説】東京テルマエ学園 第1章14話 「アイドル甲子園への道」前編

「この度、学園長の発案で、テルマエ学園からアイドルチームを作ることになりました。先生方と協議した結果、この1年C組を中心にメンバーを選ぶことに決まったわ。詳しい内容は、そうね、テレビ局からの出場チラシを配るから、それ見て確認してちょうだい。テレビ局の方から直接声をかけられた人、いるかしら?」

DODOTVの三橋から声をかけられた翌日、教室でゆかり女史がどこか疲れた様子でチラシを配った。学園長の思いつきにゆかり女史も振り回されているのだろう、ご愁傷様である。

ゆかり女史の言葉に、隣の七瀬と顔を見合わせておずおずと手を上げると、他にも優奈や穂波、涼香や汐音といったいつものメンバーが挙手していた。

それを見て、ゆかり女史は一つ頷く。

「ちょうどいいわ、アイドルメンバーはスカウトされた貴方たちでやりなさいな」

「ハァ?」

不審そうな声を上げたのは優奈だ。隣の席の穂波が次いで口を開く。

「先生、それはちぃと横暴なんじゃねェか? 私らは温泉関係の仕事をするためにこの学校で勉強してンだ、いきなりアイドルになれって言われても誰もやらねェよ」

「せやなぁ。温泉関係あらへんし、こればっかりはあんま乗り気せえへんな」

一番にやる気を出しそうな八郎まで、頬杖をついてあくびをしている。

ゆかり女史は教室を見渡して、みんな一様に難しい顔をしていることに気づいてため息をついた。

「私もそう言ったんだけど、あの人、一度決めたら譲らないから……」

ゆかり女史は困ったように説明を始める。

まず、この企画はテレビ局からのものであること。アイドル甲子園という企画に出て、他のアイドルと切磋琢磨してトーナメントを勝ち上がって優勝するというもの。

アイドルを目指している人からすれば魅力的なのだろうが、1年C組だけでなくテルマエ学園に入学している生徒たちは将来、温泉関係の仕事に就くためにここにいる。誰も積極的にやりたいとは思わない。

けれどゆかり女史は、出場するだけで、優勝しなくたっていいと言う。要は『テルマエ学園からアイドルグループが出た』という話題性が欲しいだけなのだ。

アイドルグループとしてトーナメントを勝ち上がったとしても、そのまま芸能界に入ってアイドルになるなんてことはしなくていいそうだ。もちろん、アイドルをやりたいなら芸能界へ入ったっていい。就職の選択肢が一つ増えたと思えばいいだけなのだと。

そこまで聞いてもやはりいい顔をしないC組を見て、ゆかり女史は苦笑した。

「そんなにみんなが嫌がるならこの件についてもう一度学園長に進言してみるけど、みんなも前向きに考えておいてね」

ゆかり女史が教室から出て行くと、クラスメイト達は困惑したように顔を見合わせる。

「優奈やらないの? こないだの実習のときアイドルになって平泉翔平と結婚したいっつってたじゃん」

「こんな胡散臭い企画に乗ってたまるもんですか。あんたこそダンス得意なんでしょ? やれば?」

「アイドルっていつも可愛い子ぶってなきゃいけないじゃん? すっごいストレスたまりそー」

「あんたの周りにいる人間の方がストレスたまるわ」

優奈と汐音が押し付け合うのを穂波は面白そうに聞いている。いつもなら面白そうだと話に入ってくる萌はぐったりと疲れた様子で机に伏せて眠っていた。

「アキも七瀬も涼香も、アイドルんスカウトされたん、すげぇね!」

「え? わだす、圭ぢゃんにも声がげだって聞いだよ?」

「声かけられちょらんじゃっどん……あ、あれかな。寮ん前で待ち伏せしちょった男」

「それそれ」

「ちょかっ肩ポンしてくっで、変質者かて思うて投げ飛ばしてしもた」

「え、すご……」

「変質者は投げ飛ばせち高校ん先生がゆちょったで!」

「そ、そうなんだぁ」

「アグレッシブな高校ね……」

へへへと頬をかく圭に、どんな学校に通っていたのかと涼香とアキ、七瀬は頬を引きつらせる。

「アイドルかー、ただのアイドルやないでグラビアアイドルやったら大賛成したんやけどなぁ」

「それええですね師匠!!」

「せやろ、アキも涼香もおっぱいでかいし、七瀬ちゃんと、優奈はんと、汐音はスタイル抜群やし、きわどい水着も着こなせるで!」

「たまりまへんなぁ、グラビアアイドル甲子園に企画変更してもらうようテレビ局に要請してみまひょか!」

「SNSで有志募って爆撃したらいけるんちゃうか!?」

鼻息の荒いニッパチコンビの横で、渡は何かを思いついたように一つ頷いた。

「待てよ、アイドルか……。いい方法かもしれないな」

そのままスマホを取り出しアキと七瀬へメッセージを送った渡は、ひらめいた案をどう生かすかと、そのまま情報収集を始めた。

放課後、アキと七瀬は渡に呼び出されて食堂へ来ていた。先にテーブルへ着いていた渡は何やら紙に書きつけていたが、アキと七瀬に気づくと席に着くよう促す。

「お前ら、アイドルやらないか」

「えー、渡までそれ言うの?」

DODOTVに始まりゆかり女史に続き、あげく渡まで。アキは渋温泉の復興のために東京テルマエ学園へ入学したのだ、アイドルなんて興味はない。七瀬も、夢は女優であってアイドルではないのだ、あまり気乗りがしなかった。

首を振る二人に、渡は書いていた紙をテーブルへすべらせる。

「アイドル甲子園に出場したアイドルが温泉地の宣伝をすれば、町おこしになるんじゃないか?」

アキと七瀬は先日、八郎の自主制作映画の撮影で渋温泉へ帰ったときの、七瀬の姉の奈美と婚約者である秀長を巻き込んだいざこざを思い出す。

早瀬コンツェルンへ「渋温泉街はリゾートに変えない方が上手くいく」と啖呵を切りつつも、詳しいことは何も考えておらず無計画だった渡は、東京へ帰ってきてからいろいろと復興案を練っていたのだが、なかなかいい案は浮かばない。

けれどゆかり女史の話でひらめいたのだ。渋温泉出身のアキと七瀬がアイドルになって渋温泉で活動すれば集客が望めるのではないかと。

ただの可愛い子の集まりでは駄目だ、話題性がない。しかしテレビ局が企画するアイドル甲子園へ出場したとなれば話は別だ。テレビを通していろんな人の興味を引ける。そして、この子たちが活動しているならと渋温泉へ足を運んでくれるかもしれない。

渋温泉で握手会やイベントを行えば、そのたびに集客できる可能性がある。

「その考えはなかったわ……」

熱弁する渡に、感心したように七瀬がほうっと息を吐く。

「そういえば、わたしたちがアイドルになれば温泉地の目玉として人を呼べるかもって、テレビ局の人も言ってたね」

「あの人に聞いた時は半信半疑だったけど、こうやってデータとして渡されたら納得よね」

「うん。すっごくわかりやすい」

アキは七瀬に頷きながら、ゆかり女史から話を聞いて放課後までに渡が作ったデータ表を見て感心する。そこには名古屋や福岡といったいわゆるご当地アイドルを基にした集客推移が、数字に弱いアキでも理解できるようカラフルにグラフや表を多用して作成されていた。

渡が自信あり気に頷いた。

「猿でも理解できるように作ったからな」

「……それって、遠回しにわたしをバカにしてるよね!?」

「だってお前、猿並の理解力だからなぁ」

「猿だってけっこう頭いいじゃん!」

「ハイハイハイ、いちゃいちゃしないで。――で、どうするアキ? アイドルチームの話、受けるの?」

むすりと口をへの字にした七瀬が、気を取り直してアキに尋ねる。アキはもう一度渡の作ったデータ表へ目を通して頷いた。

「……うん。渡がここまでデータ表作ってくれたし、テレビ局さんから声もかけてもらってるし。挑戦、してみようかな」

「でもアキ、人前に立つの嫌いでしょ? この間の学園祭だって、すんごい頑張ってステージに立ったよね?」

「うん……正直、目立つようなことはしたくないよ。七瀬みたいに可愛くないし、アイドルになれるようなタイプじゃないって自分でも分かってる。でも、そんなこと言ってる場合じゃないのも分かってるの。わたしが頑張ることで渋温泉にお客さんが来てくれるなら、やらないと後悔すると思うんだ」

八郎の自主制作映画の撮影でクラスメイトが七瀬とアキの実家の旅館へ泊まりに来たとき。せわしなく働く従業員、あちらこちらへ指示を飛ばしながらも楽しそうな、嬉しそうなお婆ちゃんの表情を思い出す。

入学前、お客が来なくて早いうちからお湯を抜いていた温泉は男湯にも女湯にもなみなみと溜まり、全部屋には数日前から何度も太陽を浴びたふかふかの布団。ずっと仕舞い込まれていた多数の食器は、海あり山ありの豪華な食事を彩った。

活気ある実家の旅館を手伝いながら、この時がずっと続けばいいのにと何度も思った。あの時間が続くなら、お婆ちゃんの活き活きとした表情がまた見られるのなら、人前に立つことが苦手なアキも頑張ろうと思うのだ。

それでもやっぱり不安もある。後悔したくない、と言いながらも、苦手なものに挑戦する怖さで両手が震えてしまう。隠そうとしたそれをぎゅっと力強く握ってくれたのは、温かな七瀬の手だった。

「なら、私もアイドルになる」

「え、でも、七瀬は女優になりたいんじゃ……」

「アイドルから女優になってる人なんていっぱいいるじゃない。それに、私の家だって心配だもん。あのゴキブリストーカー男をぎゃふんと言わせてやんなきゃ気がすまないわ」

強く握られた両手から伝わってくる七瀬のぬくもり。いつだって隣にいて、背中を押してくれた七瀬。このときも、アキは一人じゃないよと伝えるように力強くて、七瀬と一緒なら何だってできそうな気がしてきた。

「ありがとう七瀬!」

「お礼を言うのは早いわよ、私たち二人じゃチームとは言えないからね。アイドルチームを作るにはメンバーを集めなきゃ!」

素直に礼を言ったアキからつんと顔をそらした七瀬だが、頬がほんのり赤く染まっていて、照れ隠しだと丸分かりだ。

七瀬の言葉に、そうだなと渡が同意した。

「ゆかり女史も言ってたが、テレビ局からスカウトされた奴らでチーム組むのが一番手っ取り早いだろうな。何人も本物のアイドルを見てきてるテレビ局からスカウトされたってことは、アイドルになれる素質があるってことだ。だったらスカウトされた奴は全員チームに引き込みたい」

「手上げてたの誰だっけ。私とアキと、優奈さんと穂波さん。あと涼香と、汐音もかな?」

「圭ちゃんもだよね! わ、いつものメンバーだぁ!」

「確かにお前ら、黙ってれば顔面偏差値高いからな。黙ってれば」

口を開けば訛りの強い方言だったりべらんめえ調だったりで残念なことになるけれど。

渡が言外に含ませたものを察して、七瀬は苦笑した。方言は特徴的で可愛いけれど、アイドルになるには少しキャラクターとして強すぎる気がする。

「アキ、七瀬。とりあえずいつものメンバーをチームに引き込め。チームのメンバーが決まらないと、集客プランも考えられないからな」

「わかった」

「そう簡単に、チームに入ってくれるかなぁ……」

アキの不安は的中した。寮でいつものメンバーに声をかけてみたけれど、みんな反応が思わしくなかったのだ。

教室でも穂波が言っていたが、東京テルマエ学園で学んでいる生徒はみんな、将来は温泉関係の仕事へ就く。期間限定だとしても、アイドル活動なんて面倒なものをやりたがる生徒はいないのだ。

すげなく袖にされて落ち込むアキに、渡は「まずは涼香と汐音へ声をかけ続けてみろ」と言った。学園祭を思い返すとあの二人はエンタメ志向が強そうだから、少し押せば引き込めそうだと。

アキは、まずは涼香へ声をかけてみた。引っ込み思案な自分にできるはずがない、とせわしなく首を振る涼香だけれど、アキは学園祭で格好良くギターを弾いていた姿がどんなに素敵だったか、涼香がチームに入ってくれるとどんなに心強いかと熱く勧誘したところ、「あ、アギちゃんがそったらにもわだすを必要どすてぐれるんなら……」と頬を赤らめながら了承してくれた。

大喜びするアキ、計算したわけでもないのにあっさりと涼香を落としてみせたアキの話術に、七瀬は天然人たらしだなと見直した。

つぎに汐音へ声をかけたところ「チアとアイドルはだいぶ違うからなぁ……」と少し渋っていたのだが、ダンスといえば汐音しかいない、汐音がいないとはじまらないのだと力説すると、仕方ないなと言いながらも満更でもない様子で了承してくれた。

「やったー!」

「うんうんいい感じ。この調子で声かけていこ」

メンバーが二人も加わって、アキと七瀬ははりきって勧誘を続ける。

同室の涼香から話を聞いていたのか、圭に声をかけると「私はむぞうもなかし、涼香んごたっ特技もなかどん。アキがリーダーやっなら協力すっじゃ(私は可愛くもないし、涼香みたいな特技もないけど。アキがリーダーやるなら協力するよ)」と照れくさそうに了承してくれた。

こんなに可愛い圭ちゃんなら大丈夫、とアキは嬉しくなって圭へぎゅうっと抱きついた。羨ましくなった涼香もアキへくっついて、三人はくすくすと笑い合う。リーダー云々の部分はよく聞き取れなかったアキは、ここで聞き流してしまったことを後で悔やむことになるのだが。

それから、穂波へ声をかけた。汐音から話を聞かされたらしく、早々にいつものメンバーを了承させたことに驚いていた。両手を合わせて頼み込むアキを、面白そうに目をきらめかせて見つめていた穂波は少し考えた後、ぽんと自身の太ももを叩いてみせた。

「アキの嬢ちゃんがそこまで言うンだ、乗ってやってもいいよ」

「ほんと、穂波さん!」

「ああ。お前さんがリーダーをやるなら、ね」

穂波に指を突きつけられて、アキは一瞬意味がわからず口をつぐむ。

「リーダー? わたしが……?」

そういえば圭を勧誘したときに、彼女もリーダーがどうとか言っていたような。訛りが強くて聞き取れず、流してしまったことを後悔した。

ただでさえ人前に出ることが苦手なのに、チームのセンターであるリーダーになれというのか。想像しただけでぶるりと体が震える。アキは困って、穂波から目を反らしてしまった。

七瀬は思わず口を挟む。

「ねえ穂波さん。リーダーは誰がするっていうのはメンバーが決まった後でいいんじゃない? べつに、今決めなくても……」

いつものメンバーをチームに引き込むことができれば、きっと汐音や萌、優奈あたりがリーダーになりたいと言い出すだろう。目立つことが苦手なアキを、無理にチームの一番前へ押し出すことはしなくていいのではないか。

七瀬はそう考えていたのだけれど、穂波に睨むように流し見られてたじろいだ。

「メンバーをまとめる奴は早いうちから決めといた方が、後でいざこざが起きなくていいじゃねェか」

「そうだけど、何もアキじゃなくてもさ……アキは目立つの苦手だし……」

「なンだ、自分が声かけてチームを作るってのに、いざって時はメンバーの後ろに隠れンのか? そんな奴が勧誘して、誰がチームに入りてェと思う?」

「それは……」

アキがメンバーを集めるということは、アキのチームを作るということ。アキの思いに共感したり、その思いについていこうと決めて、メンバーはチームに入ってくれるのだ。それなのにメンバーが集まったとたん後ろに引っ込みますでは、メンバーはどうすればいいのかわからない。

穂波は、俯くアキを強い視線で見つめる。

「アキ。お前さんがリーダーとしてチームを引っ張っていく覚悟があンなら、私もチームに入ろう。でもそんな覚悟もなく、チームができたらメンバーに、七瀬の後ろに隠れて、他のメンバーに引っ張ってってもらおうって考えじゃア甘すぎるわな。お前さんがチームに入れって声かけてンだ、なんかあった時にお前さんがチームを守ってやらずにどうすンだ。覚悟もなく、メンバーになれって声かけてンじゃねェよ」

穂波の視線に射抜かれて、アキは俯いた顔を上げられなかった。

穂波の言うことは正しい。声をかけてメンバーになってもらったのなら、自分がメンバーを引っ張っていかなくてはならない。分かっているが、メンバーよりも目立つ行動をするということに気後れしてしまう。

何かあった時にメンバーを守る。それは、できると思う。アキが声をかけたメンバーなのだ、メンバーが何かトラブルを起こしたり、トラブルに巻き込まれたりしたときには、チームを代表して頭を下げるし、メンバーを全力で守りたい。その思いは、ある。

けれど、どうしてもメンバーよりも目立つような行動をとりたくなかった。

リーダーになるということは、メンバーの前に立つということ。メンバーよりも目立つ、ということ。人前に立つようなことはしたくない、その気持ちはまだあるけれど、アイドルになって渋温泉を復興させると決めたからにはその気持ちを押し込めて頑張ろうと決めている。けれどその苦手意識とは違う理由で、アキはメンバーの前に立ちたくはなかった。――それは時に、メンバーからの妬みを受けるだろうから。

アキがチームに入ってほしいと声をかけているのは、東京テルマエ学園へ入学したときから仲良くしてもらっているいつものメンバーだ。七瀬はともかく、涼香や圭、優奈と穂波、汐音に萌。思い返せば、たくさんの楽しかった出来事が脳裏に蘇る。

楽しかった思い出が粉々に壊れるような、メンバーとの不和を作りたくなかった。特に汐音や萌、優奈は人の前に立つことを好んでいる。彼女たちを差し置いて自分がリーダーになるだなんて、アキにはメンバーとの不仲のきっかけになってしまうとしか考えられなかった。

アキは、みんなと仲良くしたかった。せっかくできた友だちなのだ、進んで不和のきっかけにはなりたくない。

ぽつりぽつりと、アキは穂波へ心の内を語った。俯いたままのアキの頭を見つめながら、七瀬は「変な心配しちゃって。おバカね」と肩をすくめる。

アキの気持ちを聞いた穂波は、ぽかんとしてアキの顔を見つめていた。

「それだけの理由で、リーダーやりたくねェのかい?」

「うん……」

「チームをまとめる重圧とか、メンバーを引っ張ってく力がないとかじゃなく?」

「うん……」

「メンバーと仲良しのままでいたいから??」

「うん……」

「バカじゃねェのかお前さん」

「ごめんなさい……」

「アキがバカでごめんなさい」

素直に頭を下げるアキと、一蓮托生、アキの育て方を間違えたと頭を下げる七瀬を呆れたように眺めていた穂波だけれど、だんだんとおかしくなってきて、くっくっと喉を鳴らし、揃って頭を上げた二人の不思議そうな顔を見て堪えきれなくなった。

「あっはっはっはっは!」

きょとんと目を瞬く二人を前に、穂波はおかしそうに笑い続ける。

「本当、バカだねェアキの嬢ちゃんは」

アキだから、メンバーが集まるのだ。アキが頼むから、アイドルなんて温泉に関係のないものでも、やってあげようかなと思うのだ。アキが引っ張ってくれるから、大丈夫だと思えるのだ。

全部全部、他の誰でもない、アキだからこそなのに。本人が一番分かっていないなんて、おかしくてたまらない。

「しょーがねェ。アキの嬢ちゃんが堂々と頭張れるよォに、この穂波さんが見張っててやろうじゃねエか」

「えっいいの穂波さん!」

「お前さんがリーダーでも、みんなと仲良しのままでいられたら問題ねェんだろ? なら私がいつもどおり、メンバーの仲裁してやるよ。喧嘩するほどなんとやらだ、多少の諍いはあるだろォが、決定的な溝を作る前に口喧嘩なり殴り合いなりすりゃアいいんじゃねェか?」

「殴り合いはちょっと……平和にいこ、平和に」

「ありがとう穂波さん!」

まさかチームに入ってもらえるとは思わず、感激したアキは穂波に抱きつき、穂波は大きな胸を押し付けられて、その柔らかさに「役得だなァ」と笑って抱き返した。

ぐりぐりと穂波の胸に頭をこすり付けるアキはまるで子犬が飼い主に甘えているようで。犬じゃないんだから、と思いつつも七瀬はアキをとめなかった。いつも飄々としている穂波が嬉しそうにアキを抱きしめていたから。

それよりも、と七瀬は穂波の部屋を見渡す。ベッドを見ても机を見ても、優奈の姿がない。

「そういえば穂波さん、優奈さんは?」

「ああ、最近同伴が増えたみてェで、学校終わったらすぐ着飾ってバイトさ」

「えっ忙しそう……」

穂波はアキを離すと、思い返すように腕を組む。授業が終わるといつも仮眠をとるはずの同室は、この日も帰ってくるなりささっと着替えて、慌しく出勤していった。

姿を見ないといえば、と七瀬が続ける。

「萌も見ないよね」

「萌ちゃんはスケボ? スノボ? の練習だって圭ちゃんが言ってたよ」

「そういやァ、何とかっつー大会に出るとか言ってたっけな」

「そうなの? じゃあ二人を捕まえるのは難しそうね……」

「ま、鼻で笑われて終わりだろォな」

「困ったなぁ……どうしよう」

仕事に大会にと忙しい二人を引き込めるだろうか。ううん、と頭を抱えて唸るアキに、穂波は指をたててみせた。

「奴らを別々に捕まえるより、放課後いつものメンバーを教室に集めて演説しちまった方が早いんじゃねェか?」

「あ、それいいかも」

「それと、スポンサーだな。アイドルになるにゃ衣装なりスタジオ代なり金がかかる。八郎にも声かけた方がいいだろォな」

「げ……」

八郎と聞いて嫌な顔をする七瀬に苦笑しながらも、優奈は自分が声をかけておくから、と穂波は言う。萌には同室である汐音に声をかけるよう頼んでおくとして。

「アキの嬢ちゃんは、奴らをチームに引き込めるような演説を考えといてくれな」

「ええー、演説……?」

不安そうなアキに、穂波が背中を叩く。

「アキの嬢ちゃんがなんでチームをやりたいのか。それをちゃんと説明して頭下げたら、あいつらだって無下にはしねェさ」

「そうかなあ……」

優奈と萌を思い浮かべてみても、一蹴される想像しかできないのだけれど。

アキは不安そうに七瀬と顔を見合わせた。

つづく