【小説】東京テルマエ学園 第1章11話 「新宿サンバカーニバル編」後編

「……ホントに、これ、着るの?」

段ボールから衣装を取り出したアキが不安げに零すと、他の面々も唸った。

シースルーのぴらぴらの生地は頼りないし、何より身体を覆う面積が圧倒的に少ない。これではお尻が丸見え、大事な場所だけは何とか隠れているという状態である。更に頭には派手な羽飾りの帽子をかぶらねばならない。

これはいやでも目立ってしまう。

「わたしも温泉たまごかおまんじゅうが良かったなぁ……」

たまごとまんじゅうは露出が少ない。何より、体幹がしっかり覆われている。

遠い目をするアキの背中を穂波が叩く。

「そう落ち込むこたぁねえさ。アキの嬢ちゃんにゃあ、この粋な衣装がお似合いだと思うね!」

サンバの提案者とあって、際どい衣装を着るのはアキ達403号室の面々に押し付けられたのだった。慰めになるような、ならないような穂波の言葉にアキは項垂れた。

「これで踊ったら、おっぱい見えちゃうんじゃないかな」

「いいじゃない……見せられるものがあるだけ……」

隣の七瀬が沈んだ声で答える。

アキに比べればささやかな胸の七瀬は、こぼれんばかりの幼馴染のプルンプルンのおっぱいがうらやましいのである。

「七瀬の嬢ちゃんも、いい脚してんだから自信もちな! 野郎どもは思わずむしゃぶりつきたくなるような美ケツと美脚に夢中になること間違いねェ!」

「どんなフォローですか……」

やたらとポジティブな感想の穂波に七瀬は苦笑する。

「穂波の姐御はワイ特注の衣装気に入ってくれたんか?」

「これ、アンタが考えたの。道理でロクなもんじゃないわ」

穂波は途端に手のひらを返した。

「なんでやねん。さっきまで粋やゆうて、褒めてましたやん」

「そうでも言い聞かせないとこっ恥ずかしくてやってらんねぇんだよ、馬鹿タレ!」

穂波の拳骨を喰らい、八郎は頭を抱えた。

「あー! いいじゃん! 皆似合うよ。何事も形からが大事って言うし、これくらい派手な方が逆に恥ずかしくないんじゃない?」

はりきった様子で現れたのは汐音だ。

汐音は恥ずかしがる様子もなく、ド派手な衣装を完璧に着こなしていた。

「じゃ、軽く練習始めよっか」

そう言って汐音はアイポッドから曲を流した。後ろを向くと形の良い生尻を見せつける形となるため、八郎は大歓喜だった。

音楽はいちから作るには大変なので、ノリのよさそうなサンバの曲を汐音が適当に選んである。リズミカルなドラムの音とギターの絡みがやたらかっこいい曲で、音楽に疎いアキでも自然と身体が動いてしまう。

この曲に合わせて、それぞれのチームが踊るのだ。

チームは衣装毎で分かれており、練習に参加している組とぶっつけ本番組が上手い具合に混合している。即興で踊る者が周りを見ればどうにか踊れるような構成になっている。全て、汐音の提案である。

衣装を着ての練習は順調だった。――この時までは。

事件が起こったのは、ワンコーラス踊り終え、リピートして次に行くという時だ。

練習の成果で、やたらキレのある腰つきで踊れるようになったアキがステップを踏んだ時だ。

アキのビキニから、おっぱいがポロリと零れてしまったのだ。

それまでどうにかおっぱいを守護していたのだが、激しい動きに耐え兼ねてしまったらしい。

アキは咄嗟にうずくまって胸を隠した。

「うわわわっ見えてないよね!? ね!?」

「乳首ならギリギリ見えなかった」

七瀬が答えると、アキはほっと胸を撫でおろした。

「おお、よかった」

「……いや、良くはないでしょ」

この騒ぎで一旦練習が中断され、休憩となった。

汐音がビキニを着けなおすアキの元にやってきて、ケラケラと笑った。

「この衣装じゃそういうこともあるよ。本番でポロリしなくて良かったじゃん。本番なら、今みたいに曲を止めるなんてできないしね」

「ところでさあ。さっきから気になってたんだけど、あいつ……鈴木――だっけ? 何でスマホのカメラこっちに向けてんの?」

萌の言葉に、女子が一斉に鈴木二郎を睨みつけた。

影が薄くて気づかなかったが、確かにスマホをアキ達に向けて構えている。主にその焦点は、アキ達の際どい衣装組にあてられている。

「まさか、うちらのこと撮ってたんじゃあ……」

優奈は満面の笑みで近づき、二郎のスマホを取り上げた。

「困りますね、お客さん。勝手に撮影してもらっちゃ。ちゃんと許可取ってからじゃないとねえ」

他の女子とは迫力が桁違いである。

二郎はビビりまくりながら答えた。

「ひいぃ、ち、ちゃうんです。これは師匠の指示で……」

二郎から八郎へと殺意が向けられる。

「八郎の指示で盗撮してたの?」

「堂々と盗撮たァいい度胸じゃねぇか」

「待ってや。これは盗撮ちゃうで! ちゃんと考えあってのことなんや――」

「ほー……さぞや立派な考えなんだろうなァ?」

穂波が両手の関節を鳴らしながら詰め寄ると、八郎はごくりと生唾を飲み込んだ。

「せ、せやで。これはあれや。客観的に自分らの踊りを記録して、後で振り返るための貴重な映像で――」

「あっ。もしかして、さっきのポロリも映ってるんじゃないの」

「そりゃあ確かに貴重な映像だわ」

二郎スマホを取り上げ、映像や画像をチェックしていた優奈はあっと声を上げた。

「ちょっとちょっと、これ見て!」

「何?」

「これ、うちらのことじゃないの?」

皆に画面を見せ、優奈は顔をしかめた。

そこには、とあるSNSのアカウントが投稿したらしい画像が映っている。

そのアイコンが、なんと七瀬なのだ。

アカウント名は『ナナ@東京テルマエ学園☆』。美少女につられたのか、フォロワー数は3500人に達しようとしていた。プロフィールには『9月29日学祭開催! サンバカーニバルやります! ポロリもあるよ💛』の文言が載っている。

どう見ても隠し撮りのアングルのものから、正面から撮ったものまでさまざまだが、他人の空似とは思えないほど、よく見知った少女達の画像があがっている。その画像がものすごい勢いで拡散されているようだった。

「あとこれ。モザイクかかってるけど、絶対アキだよね」

見覚えのある背景に、アキとまったく同じ衣装の少女がぽろりしているムービーが流れた。これはたった今投稿されたばかりのようだったが、凄まじいほどのコメントが返ってきている。

『ぽろりキター!』

『女の子達みんな可愛いですね』

『この子と混浴したい』

『合成ですか? 本物? 本物なら投稿者さんのモラル疑います。何考えてんですか(誉め言葉)』

『学祭行きます。本番のサンバでのポロリも楽しみにしてます』

肯定的なコメントだけではなく、否定的なコメントもちらほら見受けられる。

自分のおっぱいがネット上に晒されていると知ってしばらく呆然としていたアキは、隣の七瀬の肩を掴んで揺さぶった。

「やめてー! 七瀬、どうなってんの!? すぐ削除して!」

「待って。アイコンは七瀬なんだけど、七瀬がこんなの投稿するわけない」

「やめてよ。こんなこと考えるのなんて、どこかの関西人しかいないでしょ」

七瀬が嫌悪を表すように言い捨てると、皆が一斉に八郎の方へ振り向いた。その八郎は逃げ足の第一歩、片足をあげたところで見つかりその姿勢のまま止まる羽目になる。

「八郎。説明」

七瀬が氷よりもなお冷たい声で命じると、八郎は中に定規でも入っているのかと思うほど、ピシッと姿勢を正して敬礼した。

「はい!」

八郎はすらすらと自供を始めた。

「これは広報活動の一環で、SNSで宣伝しとったんや。最初は普通にワイのアカウント使うてたんやけど、あんまり反応が乏しいんで、ここは一発バズらせなアカン思て、七瀬ちゃんの顔使うてアイコン作ったんや。アカウント名もちょいちょいっと変えて、七瀬ちゃんの写真アップしとったら反応ようなってぇ……」

「それで?」

七瀬の殺意の籠った視線に八郎は縮こまり、媚びるように両手を擦り合わせた。

「あのー……あれや。七瀬ちゃんのふりして、毎日宣伝のために、二郎が日夜隠し撮り貯めてあった写真をアップしとりました」

「……だからって、ぽろり映像流すとか何考えてんの、アンタ。一度ネットにアップされたものって、絶対に消せないって分かってんの? アキがどれだけ傷ついたと思ってんの?」

「ひぇッ!」

七瀬の周囲にブリザードが吹き荒れ、八郎は二郎の後ろに隠れた。

「これで5000人集まらなかったら、アンタ達にも公衆の面前でぽろりしてもらうから」

「そ、そんな殺生なぁー!」

「当然でしょ。ここまで身体張ったのに集まらなかったら、アキのおっぱいぽろりが無駄になるじゃない。アキをこれ以上悲しませないためにも、金の力でも何でも使って、絶対5000人集めなさいよ。ここまできたら手段を選んでる場合じゃないわ」

おっぱい画像で人が殺到するのは複雑だが、全く人が集まらないのはもっと複雑である。

混乱するアキに、七瀬はサムズアップしてみせた。

「アキのおっぱいは価値があるって、判らせてあげるからね」

9月の最終日曜日、新宿ナイアガラの滝広場はフリマをはじめとしたイベントで多くの人達でにぎわっていた。

A組とB組の出し物ではかなりの見物客が訪れていたようだが、惜しくもA組はノルマ5000人到達できなかったようだ。

入場者のカウントは、学園側が用意したイベントの特設会場入り口で行われている。

仮設とはいえ、結構豪華なステージが用意されており、学園の資金繰りの謎が更に深まるばかりである。

『新宿中央公園テルマエサンバカーニバル』と題して、C組はパフォーマンスを行うことになっていた。

皆で協力して音響機材を用意し、確認している時に涼香がギターを背負って近づいてきて、一同は目を丸くした。

「涼香ちゃん、そのギターどうしたの?」

アキが首を傾げて訊ねると、涼香はもじもじとした後、小さな声で答えた。

「これ、わだすのギター」

「ギター弾けるの? すごーい!」

汐音が駆け寄ってくる。涼香は頷き、照れたように笑った。

「今日は使う用事はねぇんだげんとも、何どなぐお守りで持って来ぢまった」

「いいじゃん、お気に入りのものあると気分あがるし」

この恥ずかしい衣装で気分を上げるためには、それくらいしかできない。

ナイアガラの滝の脇に設置された控えテントの中で待機する間、皆は緊張気味に顔を寄せ合った。

「お客さん、どれくらい来てるんだろうね」

「前情報じゃ、今んとこ3000人くらいらしいわよ。そこから減ってるかもしれないし、増えてるかもしれないし……」

「お願いだから増えてますように!」

「よかと、ですか。みんな、も。も、もう……き、き、緊張……したら、だめ……」

「落ち着きなって。あんたが一番緊張してる」

蒼白になっている圭の背中を優奈が思い切り叩いた。

「C組スタンバイお願いしまーす」

実行委員の声に皆頷き立ち上がる。

まず一つ目のダンサーチームがテントを飛び出した。

広場の周囲を踊りながら回って、最後は滝の前で集団ダンスになるのだ。

チームごとにパフォーマンスが違うが、集合してからは同じ踊りになる。

先頭で出るはずだった圭が固まってしまったので、その腕を引きながら七瀬が先頭でテントを出た。

アキ達のチームがテントを出ると、割れんばかりの大歓声が沸き上がった。

SNSでの宣伝効果か、会場にはかなりの見物客が詰め掛けていた。

最終的な人数は終わってみなければ分からないが、ざっと見た感じでは、5000人は下らない――と思いたい。

少なくとも、A組のパフォーマンスの時よりは観客の数が増えていそうだ。

歩道橋の上にまで人がみっしり並んで広場を見下ろしている。

「ヒューッ!」

七瀬は全員に勢いを付けるために声を張り上げた。

「ハアァァァイ!」

ハンとミッシェルが応えた。

「アイーッ!」

優奈がヤケクソ気味に声を張り上げた。

音楽が一瞬止まる。

男子のホイッスルが響く。

「イエーイ!」

メインの曲が大音量でスタートした。

それぞれのチームに分かれ、音楽に合わせて踊りながら広場を一周し、ナイアガラ前に全チームのダンサーが集合しポーズを決める。

そこで、再び音楽が止まった。

しかし先ほどのようにすぐに音楽が再開することはなく、音が唐突に止んだ会場には戸惑いと、観客の騒めきが広がった。

「し、師匠ぉ」

「何や、どうしたんや」

鈴木二郎があたふたとカメラを回していた八郎のところへ駈け込んできた。

「どないしましょう。どうやっても音が出ませぇん」

「何やて! ここで機材トラブルかいなー!」

「ダンサーズも踊り止まっちゃってますぅうう」

「よし、分かった。ワイが機材を何とかする。その間、適当に時間稼いでくれってみんなに伝えてや」

予想外のハプニングに、C組のダンサーズは完全に固まってしまっていた。

音が無ければこんなド派手な恥ずかしい衣装で腰をくねらせ踊るなんて無理だった。

事態を把握している者が誰もいない中、二郎が意外にも男らしい走り方で駈け込んでくる。

「ちょっと、何がどうなってんの!」

汐音が詰め寄ると、二郎は困った顔をした。

「音響機材が故障しましてん……」

「いつ治るの?」

「分かりません。今師匠が修理してますけど――」

「どうしよ――」

アキは顔を曇らせた。

折角ここまで順調に観客を集められたのに、最後の最後でコレでは、途中で帰ってしまう人も出てくるだろう。

観客カウントはパフォーマンス終了時点のもの。途中で帰ってしまった人は無効となる。

「アキぢゃん……」

涼香がアキの目元に指を伸ばして拭った。

「泣がねぇで?」

「な、泣いてないよぉ」

言いながら、アキの目からは涙が零れた。

身体を張った集客が無駄になる、頑張って練習してきたことが全部徒労に終わる――そう思うと、次々と涙が溢れてくる。

「やだ、こんなとこ見せちゃって――ごめんね涼香ちゃん」

「ううん。大丈夫だよ。何どかするね」

そういうと、涼香は小走りで控えのテントへと走りだした。

アキの為――いや、皆の為に役に立てるかもしれない。

そう思うと、足どりは軽い。

テントの中には、涼香のギターが立てかけてあった。

涼香はそれを手に取ると、勢いよく再び外に飛び出した。

音響機材の中にはアンプがあった。ギターを弾くための条件はそろっている。

目の前には、大勢の聴衆がいる。

涼香の走りに合わせて心臓が跳ねる。

全身が熱い。掌がびりびりとして、口の中が渇いていた。

ピックを握り、コードを抑える。

曲は覚えている。サンバの練習で何度か聞いている。――少なくとも、三回以上は。

涼香は上から下に、腕を振り下ろした。

パフォーマンスが再開する気配がない中、突如としてエキセントリックなギターの音が鳴り響いた。

不安に俯いていたアキ達ははっと顔を上げる。

それは、ここ何週間も聞き続けた曲だった。

「これ、誰が……」

音源の先にはギターを持った涼香がいた。

涼香のギターはラテンのリズムを刻み、音を奏でていた。最初は陽気な曲調だったのだが、次第にそれがロック調に代わっていく。

涼香は完全に自分の世界に入ってしまっていた。

ダンサーズ達は戸惑っていた。一旦止めてしまった流れだ。ラテンからロック調になってしまったギターの音に合わせるとなると、どこからどう再開したらいいのか分からずにいた。

そこで、汐音が動いた。

涼香の音に合わせて汐音がソロで踊り出すと、騒めきは次第に歓声に代わっていった。

キレのある腰つき、軽やかなステップで観客を魅了する。

それは、これまで練習してきたどの踊りとも違った。

恐らく完全に汐音のアドリブ、それこそ今即興で踊っているに違いない。

いつ機材が治るか分からない今、汐音と涼香の即興のパフォーマンスに全てを委ねるしかなかった。

しかし、そのおかげで会場は大いに盛り上がった。

音楽が中断したのも、途中からギターソロのロック調になったのも、パシスタが踊り出す為の布石――パフォーマンスの一部だと思ってくれたようだ。

帰っていった観客以上に、涼香のロックと汐音のパフォーマンスに引き付けられた客が多く入ってきていた。

「皆さん、次から元の曲に戻りますよってー」

ワンコーラス終わったところで、やっと音響機材の修理が終わった。

二郎の伝令の直後、無音だったスピーカーから再び大音量の音が流れ出す。

ロックから再び元の曲に戻ったところで、呆然としていたC組ダンサーズは我に返った。

それほど汐音と涼香は凄かったのだ。

ここがライブ会場であったのなら、観衆の一人として楽しみたいくらいだった。

結果的に、出し物は大成功である。

全員で踊り切ったところでの観客数は目標の5000人を大きく上回る、6800人だった。

控えのテントに戻ったところで結果を聞いて、アキ達はその場にへたり込んだ。

「よ、良かった……」

「アキのおっぱいは6800人を釣るほどの価値があったってことね」

「うん……うん!」

アキは七瀬におっぱいを揉みしだかれながら喜びの涙をぬぐった。

「まあ、今日の一番の功労者は涼香と汐音だァね。ホントお疲れさん」

穂波は二人をねぎらうように肩を叩いた。

「正直、すごかったと思うわ。やるじゃないおたんこなす」

言ってから、優奈はそっぽを向く。

優奈が素直に汐音を褒めるなど珍しいことだった。

「えへへーそれほどでもあるかもー。もっと褒め称えていいんだよー、優奈」

「ったく、調子に乗るんじゃないわよ」

「うっ、勝手なごどしてごめんなさい」

萎れる涼香に優奈は頭を抱えた。

「あんたはもっと胸張っていいのよ! あーもう、足して二で割りたい!」

「そうそう、涼香のおかげでうちも踊れたしさ。マジ助かった。ありがと!」

汐音は涼香をぎゅっと抱きしめた。

当の涼香はまんざらでもなさそうだ。

アキも汐音に倣って涼香をぎゅっと抱きしめた。

「涼香ちゃん、本当にありがと! これで課題クリアだね!」

涼香は嬉しそうにアキを抱きしめ返した。

「い、いいのいいの! アキぢゃんの為だから!」

今回ばかりはしょうがない、と七瀬は少し離れたところで二人を見守る。

「しっかし、ラテンからロック調にするたァ、ちょっと驚いたねェ」

「途中がら頭真っ白になって、気づいだらロックになってだ。高校の時からずっとロックバンドやってだがら」

涼香は申し訳なさそうに顔を赤らめた。

長年染みついたロックの魂は、そう簡単に抜けなかったらしい。

「でも凄いよ! 咄嗟に弾けるなんてさ!」

「そうね。涼香に対するイメージが一気に覆ったわ」

「バンドやってたってことは、歌えるの?」

「あー……まあ」

涼香はどこか気まずそうに顔をそむけた。

「じゃあ今度皆でカラオケ行こうよ」

「いいねそれ。涼香の歌聞きたい!」

盛り上がっているところに八郎と二郎が入ってきた。

「やー、皆ご苦労さん。SNSでも好評やったで、サンバ。目標の5000人以上集まったし、宣伝の甲斐があったっちゅーもんや。これでワイは無罪放免っちゅーわけやな」

「はー残念。八郎のポロリを披露するチャンスだと思ったのに」

真顔でため息をつく七瀬に八郎はがくっと肩を落とした。

「そりゃないでぇ七瀬ちゃん。ワイかて客を集めるために手段を選んでなかったんやから」

「ふーん。その手段って何」

七瀬の白い目にもめげず、八郎は意気揚々と答えた。

「よう聞いてくれはった! なんと、七瀬ちゃんと混浴できる権利(が手に入るかもしれない)を来場した方抽選で5名様に、更に七瀬ちゃんのパンツとブラジャーをプレゼント――どや?」

「……月夜ばかりと思うなよ」

低く呟いた七瀬の言葉を隣で聞いていた穂波は、苦笑を漏らした。

「それ、ヤクザが使う常套句」

「やだ、穂波さん聞いてたの?」

「ばっちりね。女優志望が言う言葉じゃあねェけど、ヤる時ぁ声かけてくれれば手伝うよ」

七瀬は気まずげに頬を掻いた。

「えーっと……お願いします」

11話 終わり