【小説】東京テルマエ学園 第1章5話『小便小僧になって堂々とお覗き大作戦』

「もー、なんでわたしがこんなことしなくちゃいけないわけぇー!?」

持っていたブラシを放り出し、高い位置で結んだツインテールに泡をくっつけながら汐音が叫ぶ。その声は広い浴室に響き渡り、面倒だけれどゆかり女史からの指示だからと頑張って掃除をしていたアキたちの心を億劫にさせた。

「うるっさいわね、そんなのゆかり女史に言いなさいよ! 文句言う暇があるなら手ぇ動かして、さっさと終わらせたいの!」

意外にも手際よくジェットバスの浴槽をブラッシングしている優奈が、顔をあげないまま汐音に怒鳴り返す。

「もーやだよー! 湯殿の掃除ってめちゃくちゃ大変じゃん! なんで清掃員さんにやってもらわないのー!?」

「こーゆー地味な作業も、温泉経営の一環だからなァ。私らが経営に携わるようになりゃァ否応なしにやらなきゃなんねェ仕事だ、しょーがねェさ」

子どものように駄々をこねる汐音に、風呂桶を一つ一つスポンジで洗っていた穂波が苦笑した。

三人のやりとりを聞きながらシャワー台を掃除していたアキと七瀬は顔を見合わせて苦笑する。

アキと七瀬は、小さい頃から家の手伝いで浴場掃除をしてきたこともあり慣れている。それでもこの広さの湯殿となると、かなり骨の折れる作業であることは確かだ。手分けして掃除してやっと綺麗にできるという感じだった。

アキ達が浴室を担当する一方で脱衣所を掃除しているのは、涼香、萌、圭の三人。全てはクジの結果である。「あっちは楽そうでいいな」とか、「他人の髪の毛の詰まった排水溝なんて見るのも嫌!」とか言いながら未だ乗り気にならず、のろのろとブラシをかける汐音に穂波が発破をかける。

「早くしねェとお客さん入ってきちゃうよ」

「まあ、そうなったら裸で待っててもらうしかないよね!」

「そんな温泉、もう二度と来ないと思うけど」

七瀬の冷静なツッコミに汐音はそうかなーと首を傾げた。七瀬は更に続ける。

「時間内に終わらせるのも仕事のうちよ。まともに掃除もできないんじゃ、信用失くすってことくらい分かるでしょ」

「さっすが、優等生は言うことが一味違うねー」

「ったく、学級委員長のご高説に感心してないで、さっさとあんたの仕事を終わらせなさいよ! あんたのせいでわたし達まで減点くらったらたまったもんじゃないわ!」

優奈も穂波も、既に自分の分担を終え、床のタイル掃除に移っていた。

「わーお。二人とも仕事はやーい」

「あんたが遅いの!」

「じゃあその調子でわたしの分まで頑張っといてよー。じゃないと手が荒れちゃうしせっかくのネイル全部取れちゃう。このネイル、ちょー高かったんだから!」

「はあ!? あんたマジで何なの!」

優奈はブチ切れ、ブラシを振り上げた。汐音は反省する様子もなくけらけらと笑った。

「怖っ。そんなマジ切れしなくたっていいじゃん。そんなに怒ってばっかりだと余計に皺増えちゃうよ? あーなんか、かわいそー」

「人を年増のババぁ扱いするんじゃないわよ!」

「そうだよ、いくら優奈ちゃんが実年齢よりちょっと上に見えるからって、おばあちゃんだなんてあんまりだよ!」

「なんだって!」

何とかこの険悪な雰囲気を変えるため、アキがフォローのつもりで言ったのだが逆効果である。優奈はますます逆上した。

七瀬と穂波はそれぞれ頭を抱えた。

「アキ、それ、火に油注いでる。むしろ汐音より酷い」

「あー……話がややこしくなるから、ちょいと黙っててくれねェか」

怒り心頭の優奈を穂波が何とか宥め、あっけらかんとしている汐音に七瀬が言った。

「あのね、汐音。与えられた仕事も満足にできないとか、終わってるからね。ちゃんとやってくれないと、私たちまで連帯責任で減点されるんだから。それ、分かってる?」

「はーい、ごめんなさーい」

汐音はぺろっと舌を出し、ようやくまともに手を動かし始める。

この浴場の掃除は実務研修の一環だ。学園の浴場は一般にも開放しているため、こうして交代で清掃活動を行っているのである。体調不良や何らかの理由で参加できない場合は、A4十枚程度のレポートを書かねばならない。風呂掃除で十枚分の内容が書けるわけがないので、さぼろうとする者はまずいない。

アキと七瀬がシャワー台の掃除を終えた時、出入り口扉が開かれる。ひょっこり顔を出したのは涼香だ。

「アキぢゃん達、浴室の掃除はどだ感じ? 終わりそう? 手伝うべが?」

「脱衣所の掃除はもう終わったの?」

「うん」

「いいわね、そっちは。こっちはどっかのKYが手を動かさないもんだから、全然終わんないんだけど」

皮肉げに呟きながらもしっかり手を動かすのは優奈だ。穂波と七瀬は苦笑し、皮肉られた当の汐音は、口元に手をあてて吹き出した。

「ぷっぷー、アキったら優奈に言われちゃってるしー」

「ええー! わたし結構真面目にやってたのに、ひどいよぉ」

「いやいや、今の、汐音のことでしょ」

「何で。KYって言ったらアキのことでしょ? あたしはアキほどじゃないし」

「いやァ、正直、どっちもどっちかなァ」

それはそれで酷いと思ったが、何故かアキは七瀬の隣でほっとしている様子だった。

とにかくこのままでは終わりそうもないからと、脱衣所メンバーも合流して数ある浴槽の掃除を始める。

どうにか終わった時、大して仕事をしていなかった汐音がうんと伸びをして一言漏らす。

「掃除してたら汗かいちゃった。ねー、お風呂入ってきていい?」

「今掃除したばっかりなのによくそんなこと言えるね、汐音」

「ちがーう! 何も今掃除したこのお風呂に入ろうって言ってるんじゃないの。ねー、いーじゃん。皆で屋上風呂いこーよ」

駄々をこねる汐音を尻目にタオルで濡れた足を拭いていたその時、ゆかり女史が脱衣所に現れた。

「掃除は終わったみたいね。じゃあ皆、次は屋上温泉に移動するわよ」

汐音は、ほらね、と皆の顔を見た。

「ゆかり先生、今まさに皆で屋上温泉に行こうって話してたところなんです」

「あら、そう。じゃあ丁度よかった」

何が丁度いいのだろう――首を傾げるアキ達にゆかり女史は含み笑いを浮かべた。

一方その頃。

学園屋上にある露天風呂では、C組きってのエロ男爵である大塩八郎と、そんな彼を師匠と呼んで憚らない鈴木二郎の二人が忍び込んでいた。

二人の他には誰もいない。

それもそのはず、本来日中は使用禁止であるが、彼らにはどうしても成さねばならない使命があるのだ。

曰く。

「女の子の入浴を覗くためや!」

穂波が聞いていたならば、間違いなく鉄拳制裁をくらうところであるが、生憎この男共は懲りていない。

せっかく可愛い女の子が沢山いるのに、今まで入浴シーンをまともに目にすることが出来ていなかった、それが全国のエロ男子代表としては大変不甲斐ないのである。

「ええか。これはワイだけの望みやない。全国各地の紳士のご要望なんや!」

「さすが師匠! 僕は師匠みたいな生き方が大好きです!」

「せやろ。CIAもMI6もびっくりなワイの華麗な作戦をよう見ときや二郎」

「はい!」

返事は随分と威勢がいい。

しかしこの鈴木二郎、C組内では割と影が薄かった。

生まれは神戸有馬温泉、大きな老舗旅館の跡取り息子であり、生粋のおぼっちゃまである。およそ覗きなどするようには見えない。

ところがどっこい。八郎のようながめつさはないものの、幼少の頃から従業員の目を盗んでは女湯を覗くようなむっつり助平野郎である。

女子と付き合ったことはないが、エロゲーで培った知識ならば人一倍ある。もし女の子と付き合うことになれば、多分、誰よりも上手くフラグを建てられると自負していた。

だがそれも、所詮は童貞オタクの妄想であった。

そんな二郎にしてみれば、平然とエロいことを公言し実行に移す八郎は憧れの存在なのである。

「師匠。それで、作戦というのは。ただ忍び込んだところで女体を拝めるわけではないですし、お風呂にも隠れられるような場所もありませんよね」

「ふっふっふ。よう聞いてくれた。これや」

八郎が指したのは、小便小僧の像である。

「ワイの伝手に作らせた特注小便小僧や。ちょお持ってみい」

手招きされるがままに近寄り、二郎はその石膏像に恐る恐る手をかけて思わず叫んだ。

「か、軽い!」

「せやろ? 秘密を教えたるわ。中は空洞になっとんねん。台座に設置してあるボルトさえ外してまえば、一人でも楽々持ち運べるっちゅーわけや」

二郎はごくりと唾を飲み込み、八郎の言葉の続きを待った。

「これを更衣室のロッカーに隠すんや」

「はい」

「そんでもって、ワイが代わりに小便小僧になる」

「なるほど! 小便小僧の設置は皆知っている。まさか師匠がそれに扮するとは誰も考えない。まさに盲点……天才すぎます!」

八郎は早速全裸になり、脱いだ服もロッカーに隠した。そしてあらかじめ用意していた特殊な白いペイントを身体に塗り込み始める。背部は二郎に手伝ってもらう。

「師匠、全身くまなく塗りたくっていいんですか」

「当たり前や。ケツの穴まで全部じゃ。大事なところも忘れたらあかんで」

男性のシンボルを指す八郎に二郎はにやにやと笑った。しかも下の毛まで綺麗に剃られて、まさに用意周到である。

「流石にそこは自分で塗って下さい」

真っ白に塗りたくられ台座に上った八郎を見て、二郎は吹き出した。

「これは、どこからどう見ても小便小僧ですわ」

「せやろ? ドローンの時には失敗したけど、これなや行けるやん。題して『小便小僧になって堂々とお覗き作戦』や」

作戦名があまりにもダサかったが、ここには誰もつっこむ者はいない。

「ふっふっふ、七瀬ちゃん、待っててや……」

「ふひひひ、アキちゃんの爆乳も拝めますね」

「ぐっへっへっへ」

涎をたらしそうになりながら二人が妄想逞しくしていたその時である。

「――ここが露天風呂ですね! うわぁ凄い広い!」

露天風呂の入口の扉が開き、女性の声が耳に飛び込んできた。

風呂が使用できるようになるまでまだ少し時間があるはずだと焦る八郎は、慌てて小便小僧のポーズをとる。

「素敵な露天風呂ですね、こんな露天風呂が東京のど真ん中、しかも学校の中にあるなんて信じられませんが事実です! さあ、早速ですが私、DODOTVの新人・濱崎三波が実際にお風呂に入って突撃レポートをしたいと思います!」

(はぁっ!? DODOTVってどういうこっちゃ、なんでテレビが……おお、可愛いお姉ちゃんやなぁ……って、撮影してるんかいっ)

小便小僧になりつつ、内心は平静でいられない八郎。

なぜ、こんなことになったかといえば、話はちょっと前に遡るのだが――

「東京テルマエ学園……って何ですかこれ?」

「そろそろネタ切れなんだろう、三橋」

上司のデスクに呼び出された三橋五郎は、はあ、と気のない返事をした。

DODOTVという番組のディレクターである五郎は、視聴率を稼げる番組のネタに困っていたのは確かだった。

DODOTVとは、IT企業のDODOタウンの経営の一環として作られた有料チャンネルで、ガチンコライブで視聴者の注目を集めている。それだけに、いかに視聴者を引き付けられるかのネタが重要なのだ。

ちなみに、今まで五郎の作った番組はどれも人気は得られず、あっという間に終了してきた。

“こいつは駄目だ”

そんなレッテルが貼られていることは当に知っている。

だが、そんなわけの分からない学校の取材をしてこいと言われるなど、一体誰が予想しようか。

上司はギイギイと椅子を鳴らして五郎を見上げた。

「ミネルヴァホールディングスは知っているか」

「あ、大株主の」

「そうだ。東京テルマエ学園はそこの会長が手掛けた温泉の専門学校だ。しかも、新宿のど真ん中に。温泉学を学ぶことのできる専門学校なんて、日本、いや世界でも初めてだろうし、話題性がある。そこの取材に行ってこい」

その東京テルマエ学園の学園長、ミネルヴァは色々な事業を手掛けている資産家だが、それ以外のことはよく分かっていない。謎多き人物である。

普通、学校という閉ざされた場にカメラが入るとなるとあまりいい顔をされないものだが、その撮影をしろという。

どう考えても大人の事情が絡んでいるに違いない。

学生の入浴シーンでも撮っておけば、視聴率が跳ね上がるのは間違いないだろう。

ミネルヴァも取材陣を学園内に招き入れる以上、それは織り込み済みに違いない。

視聴率が上がれば学園の注目度も上がる。

そうなれば、来年度からの入学志望者も増える。

少なくとも、学園にとってマイナスとなるようなことはないはずだ。

「分かりました」

――ということで、東京テルマエ学園に取材にきた五郎である。

「いやぁ、よく来てくれましたね。とうとう我が学園にもテレビ取材の申し込みが来るとは」

白々しく応じるミネルヴァと五郎は固く握手を交わした。

「そのカメラ、もう回っているのかな?」

ミネルヴァが、一緒に連れてきたカメラマン・岩田優作の手にしているカメラを見て言う。

「うほん、いい男に撮ってくださいよ」

「それはもちろんですとも。じゃあ早速、インタビューさせていただいても?」

「ええ、いいですとも。なんでも聞いてください」

「よし、三波いけ!」

「は、はいっ!」

濱崎三波は今年四大を卒業したばかりの新人アナウンサーであるが、大手の放送局はすべて落ちてしまい、最後に受けたのがDODOTVだった。

セミロングの髪に大きな瞳、童顔で可愛らしい容姿をしている。アナウンサー志望の割には面接でいつも緊張してしまい失敗ばかり、最後に受けたのがこのDODOTVだったのである。

面接の時、どうにでもなれと「なんでもやります! ぜひ私を使って下さい!」と啖呵を切った結果、何故か社長に気に入られてリポーターとして抜擢されたのである。

「そもそもこの『東京テルマエ学園』とは何を目的として作られたのですか?」

「よく聞いてくれました! ここは『温泉学』を学ぶ学園です」

「なるほど。温泉学とは初めて聞く言葉ですが、一体何でしょう?」

「温泉とは、日本人の心です。誰しも温泉に浸かれば身も心も癒されるではないでしょうか」

三波の質問を受け、ミネルヴァはここぞと話し始める。カメラはもちろん回っている。

「しかし、温泉旅館などの経営は非常に厳しいのが実情です。特に地方だと素晴らしい温泉にも関わらず苦境に立たされ閉鎖せざるをえないようなところも増えている。だが、それはあまりに勿体ない!」

「なるほど」

「日本の素晴らしい温泉文化を失わないためにも、温泉経営戦略に秀でた人材を育成することが重要だと考えたからこそ、この学園を作ったのです!」

「しかし、それだけの理由で? 失礼ですが、この学園は殆ど学園長の個人的資金により作られたと聞きますが、そこまでしますか?」

確かに、ミネルヴァは手広く事業を展開している大資産家である。それが、成功するかどうか定かではない、赤字覚悟の学園を作ったのが信じ難い。

「逆ですよ。ようやく、この学園を経営する余裕が出来たのです。他の経営が安定し、収益も伸びている今になって作ることが出来たのです。遅いくらいです」

「そこまで入れ込んでいらっしゃると?」

「実はね、私も順風満帆でここまで来たわけじゃない。途中、何もかもうまくいかず、借金が増え、自殺を考えたこともありました。しかし縁あって、名も知らぬ山奥の温泉旅館に辿り着き、そこの温泉に浸かり、旅館の人の温かさに癒され、死ぬのを思いとどまった。小さな旅館で、老夫婦が経営しているようなところでしたが、あれ以上の温泉と旅館、おもてなしは今でもなかったと思っています」

目を閉じ、過去に思いを馳せるようにして言うミネルヴァ。

「その後、再起して身を持ち直した後にお礼を言いたくて尋ねてみると、旅館はとうに潰れていました。それが悲しくてね……まあ、よくある話ですが、それ以来、どうにかしたいとずっと思ってきたんですよ」

どこまでが真実か分からないが、ネタにはなると五郎は思った。確かに、どこかで聞いてもおかしくないような話だが、それで学園を一つ作ってしまおうなどと普通は考えまい。

「おっと、なんか湿っぽくなっちゃいましたな。そんな昔話より、学園を案内しますよ」

ミネルヴァはそう言って立ち上がると、五郎たちを先導して学園内を案内し始めた。

「学園の目玉と言われている露天風呂に、入浴実体験レポート、なんてどうでしょう」

「ほう、面白そうですね。それなら、我が学園の学生が入浴しているシーンも入れてはどうですかな?」

「なるほど、それはいい考えですね」

二人の間で交渉が成立した。

「いやー、これが学園の中にある露天風呂とは思えませんね。皆さんはいつも、こんな素敵なお風呂に毎日入れるんですか?」

湯浴み着をまとった三波が、入浴中の七瀬に質問する。

「はい、おかげさまでほら、お肌はすべすべですよ、授業の疲れも吹っ飛んじゃう感じですね」

二の腕をさすりながら答える。

流石は将来女優志望ということもあり、カメラを前にしても物怖じしない。

ゆかり女史に言われるがまま屋上温泉にやってきたかと思えば、あれよと言う間にDODOTVを名乗る連中がカメラを回し始めたのだ。ろくな説明もなく始まった撮影に困惑し、他のメンバーがなるべく見切れるような位置に逃げ込んだのに対して、七瀬だけは違った。それは堂々としたものである。

肌を晒すことに多少の抵抗はあったが、白雪のような肌をほんのり染めて恥じらう姿がまた良い。

その七瀬の隣では、アキが適当に合わせるように頷いていた。

湯浴み着を纏っていてもその豊胸は隠せない。健康的な色香にテレビの前の紳士も、小便小僧の中の男も、つい手を出したくなることだろう。

「テルマエ学園に入学すると、温泉のことを学べて、好きなお風呂にも存分に入れるのです」

ゆかり女史はメリハリのあるボディを惜しげもなく晒しながら宣伝した。

だが恐らく、視聴者は美人教師のエロスに釘付けでそれどころではない。

「あー、これが全国に流れると思うとドキドキするね」

「ふーん、アキでもドキドキすることあるんだ」

「そりゃそうだよ。だってちゃんと心臓ついてるもん」

ド天然な回答を受け、七瀬は笑った。

「ところで七瀬。背中に変な痣が出来てる」

「え、嘘っ!?」

「背中を見せなければ大丈夫だよ」

少しは慣れてリラックスしてきたのか、アキ達はカメラの前でも自然な様子で談笑を始める。

その一方で三波はリポートを続ける。

「本当に、とても学園内とは思えない空間ですよね。ここにある小便小僧の像もとてもリアルな感じです」

「小便小僧なんて、そだものいつでぎでだんだぁ?」

首を傾げる涼香の前を横切り、三波は浴槽内を移動して小便小僧に近づいていく。

濡れた湯浴み着がしっとりと肌に張り付いてボディラインを浮き上がらせ、しかもほんのりと肌が透けて見える。

「それにしても本当に精巧でリアルで……あら」

と、三波の目が小便小僧の一点に止まる。

「リアルに、可愛いですね」

くすりと、ソレを見て笑った。

下から上目遣いで自分の大事な部分を見つめられ、そして可愛らしく笑われて、小便小僧に扮していた八郎の緊張は限界を突破した。

(うあ、アカン、アカン……っ!)

次の瞬間、八郎の下腹部から水流が綺麗な弧を描いて放出された。

「あ、出ました、定期的に出てくるんですかね?」

三波は興味深そうに見ながら手を差し出して触れてみた。

「温かいですね、これも凄いリアルに感じます! きっとお肌に良いんでしょうね」

そう実況して、手に掬った尿を二の腕に塗る。

「あれ……でも、もう終わりですか? さすがにちょっと早くないでしょうか。どこか触れたらまた出来たりするんですかね?」

三波が八郎のイチモツを指先でちょんちょんと軽くつつく。

刺激を受けた八郎は、懸命に耐えようとした。だがそこは若く健康な男子、生理現象を簡単には抑えられない。

おまけに八郎の位置からだと三波の胸の谷間が良い角度で視界に入るし、視線をずらしてもアキの胸や七瀬のうなじ、そういったものが飛び込んできてムラムラする。

「え、え、何コレ、こんなところまでリアルに作っているんですかっ!?」

立派に勃ちゆく八郎を見て目を丸くし、三波は顔を赤らめた。だが、驚きつつも目を離そうとはしない。

「うわーもろチンコそのものー。ちょーリアル」

あえて言わないでいたその言葉を、汐音は何のためらいもなく言ってのけ、ぷっと吹き出した。釣られるように、アキ達もくすくすと笑いだす。

「ちょっと、何それ、わたしは聞いていないけど?」

ずんずんとゆかりが近づいてくると、何の予告もなく八郎の大事な息子を無造作に掴んだ。

「はぅあ!?」

思わず悲鳴を上げてしまうと、ゆかり女史がにぎにぎと手を動かす

「あらあら、これは……」

「あ、や、やめ、ゆかり女史、それヤバいやつや!」

「何がどうヤバいのかしらぁ?」

「で、出ちゃいまひゅ……」

「じゃあ、出ないようにしてあげましょうか、これからずっと」

「――!?」

ゆかりの次の動きで、声にならない悲鳴をあげた八郎は、そのまま湯船に落ちて派手なお湯飛沫をあげる。

「きゃああっ、八郎っ!?」

「ななな、の、覗いでだんだが、いづがらそだこどを、って、さっきお風呂さ注がれでだおしっこって本物だったってごどだが!?」

「うげえええっ、ちょっと、信じられないっ!?」

「わ、わ、私なんか手で受け止めて、肌に思い切り塗りたくっちゃいましたよ!? なんか高度なプレイしたみたいじゃないですかー!?」

三波は湯浴み着を脱いで今さらながらのように慌てて肌を拭う。

「こンの、天誅―――っ!!」

穂波のアッパーカットが八郎の顎にクリーンヒットする。

「あばばばっ、ふげっ、あがっ! じ、二郎! 助けてーな!」

「二郎って誰?」

「知らない」

「あいつ、いつの間にか逃げおったんかー!」

「この期に及んで架空の人物に助けを求めてンじゃねェ!」

「ちゃうんや、ワイ一人の力でこんな大それたことできるわけあらへんやん? 二郎がおったから、ワイは、ワイは――」

「言い訳無用!」

穂波から怒涛の張り手が繰り出され、軽い脳震盪が起こる程度にボコボコにされる。

「きゃあっ、どこ掴んでるの!?」

「大塩、あんたこの期に及んでまだっ」

混乱に陥る中、八郎がたまたま掴んでアキの湯浴み着が剥がされて胸が晒されたり、七瀬のお尻が見えそうで見ない際どいポーズになったり、三波はとうに湯浴み着を脱いで全裸を見せていたりと、現場は滅茶苦茶である。

「……この絵、使えないですよね」

「ああ。だが、せっかくだから個人的趣味の為に撮っておこう!」

「そうっすよね!」

五郎と優作は意気投合して撮影を続けようとしている。

「――ちょっとカメラマンさん、どこを撮っているのかしらぁ?」

見れば、全裸を惜しげもなく見せつけるようにしてゆかりが仁王立ちしていた。肝心な場所はうまい具合に自然のモザイク――いや、湯気で隠されていて見えない。

「カメラ、寄越して下さる?」

「えーと、そ、それは」

「変なことに使おうというのでしたら、二度と使い物にならないようにしてあげてもいいのだけれど? そういう男、何人もいたわねぇ」

ゆかりが開いた手を握り、捻じり、潰す仕種を見せる。

五郎と優作はひぇっと下半身を抑えてその場にしゃがみ込み、「どうぞ、お納めください」とカメラを差し出すしかなかった。

当然ながら収録内容はお蔵入り、誰一人幸せにならない結末となった。

特にこの男にとっては。

「もう堪忍したってやー! 反省しとるから」

「反省しようがしまいが、罰は罰、キリキリ働きな!」

覗きの現行犯で捕まった八郎は罰として一か月間の便所掃除、風呂掃除を命じられていた。ちなみに、八郎と行動していた二郎はあまりにも影が薄いので教室内では見つけられず、捕まえることができなかった。

「大体、なんで穂波ちゃんが見張ってんねん?」

「ア・ン・タがこの前サボって逃げたからでしょうが!?」

「痛たたた、ギブ、ギブ! ってかここ便所! 掃除前の男子便所の床―っ!?」

穂波に逆エビ固めを決められ、八郎は文字通り便所の床を舐めさせられる。

「私達、八郎におしっこかけられたんだよ」

「そうそう、こんなもんじゃ足りないくらいでしょ」

「おら、思い出したぐねぇ……」

様子を眺めていた七瀬、アキ、涼香が続けて言う。

「せ、せめて、女子便所と女子の風呂場の掃除にしてやーっ!」

「まだそんなこと言うの、懲りない男だね!!」

「あばばばば、すんません、穂波の姉御、許してぇなーっ!!」

そんな八郎の悲鳴と懇願は、男子便所の便器に吸い込まれて消えるのであった。

つづく

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