第九話 「京舞踊と紅の風車」|東京テルマエ学園・漫画・小説サイト

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第九話 「京舞踊と紅の風車」

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[site_reviews_form title=”第九話「京舞踊と紅の風車」のレビュー” assigned_posts=”230″ id=”kk67f9j4″ hide=”email”][site_reviews_form title=”第九話「京舞踊と紅の風車」のレビュー” assigned_posts=”230″ id=”kk67avnt” hide=”email”]温泉実習もいよいよ二日目を迎えていた。
京舞踊の実習ということで弾は着物姿で登場し、DoDoTVの取材班も力が入っている。
「京舞踊とは、心と身体を美しく。曲の心を理解し、優美に表現し内面を磨くものです」
弾の講義が始まった。
講義の全体をカメラが映し、三波が声を低めに実況を始める。
「テルマエ学園密着取材~草津温泉編~も、二日目となりました。今日は、松永流家元による京舞踊の授業が行われています」
授業中ということも考慮して、三波もかなり気を使っているようだ。
弾は、京舞踊の用語と動作の説明を続けている。

① すがた・・・自分を紹介する仕草。袖を片方ずつ広げて汚れていないかを確認するような動作。
② じりじり・・・足首だけを動かして移動する動作。立ったりしゃがんだりもする。
③ すみとり・・・あちこち四方になにかあるような仕草。扇子を広げたり、手を上げたりする。
④ 手返し・・・手の甲と甲を合わせる動作。逆のものは、かいぐりと呼ばれる。
⑤ やっとんとん・・・足の踏み込みと手の動きを合わせる動作。「や」は空白を「とん」は踏み込みを表している。
⑥ おも返り・・・扇子を回して踊る動作
⑦ おすべり・・・とんっ、と踏んで足を滑らす動作や、首をかしげる動作。

説明を続けている弾はすずが撮影し、アキ達は岩田が撮影を行っている。
「まぁ、話はこんなもんにして・・・。説明しながら実際に踊ってみまひょ」
弾が扇子を取って大広間の上座へと向かい、葵を呼んだ。
「葵、頼むわ」
弾の声と同時に葵がアキ達に一人ずつ扇子を手渡していく。
「お待たせしました、これより京舞踊の実習が始まるようです」
三波も小声ながらもはっきりと聞き取れる口調でマイクを近づける。
パンパンッ!
弾の柏手に大広間全体がシーンと静まり返る。
「まず、正座して扇子を少し前に置きます。次に両の親指と人差し指をそろえて三角を作り、その間に自分の鼻が入る位までおじぎをして、先に手を引いてから顔を上げます」
動作の一つ一つが様になっている。
「立ち方は後ろの足を立ててから左足を立てて、スっと立ちます。右足は半歩前へ」
弾は一同を見回す。
誰もが真剣な表情を崩さない。
「座り方はまっすぐ足を折って、左足を付けてから両足を付けます。ここまでは宜しおすな?」
皆が静かに頷く、というより頷かざるを得ない雰囲気に包まれていた。
「扇子は右手で持って左手で受けます。左の親指で一番上の骨を押し、右手で手前横に一気に開きます・・・」
「あっ!」
「うわ、なんやこれっ!」
アキ達の開いた扇子は総金箔張りでテルマエ学園の名前がデカデカと印刷されている、しかも・・・
「もう、何ぃこれぇ」
何と裏面には、【第二期 願書受付中!!】と書かれていたのだ。
(おいおい・・・、あれをアップで映して宣伝しろってことかよ・・・)
これには三橋も笑いを堪えている。
「扇子は自分の体に垂直になるようにっ!」
流石は家元、ド派手な扇子に動じることもなく弾は授業を続けていた。
「ケリアンはん、もっと早うに。ミッシェルはんは、もっと扇子を立てて・・・。温水はん、扇子が開ききってまへんっ!」
冷静な弾の指導にアキ達も平常心を取り戻す。
「早瀬はん、なかなか宜しいな」
弾は一人一人をしっかりと見まわっている。
「扇子を親指で持って、脇の方へ。平持ちはこう、握り持ちはこう。さて、そろそろ踊ってみまひょか。葵!」
急に名前を呼ばれ、腕組みして見ていた葵が弾へと視線を移す。
「三味線で、【サクラサクラ】を引いて貰えまへんか?  まさか出来へんなんてことはありまへんわな?」
挑戦的なまなざしを向ける弾に葵が笑いながら応える。
「はぁ? うちを誰やと思ってる? そんな簡単な曲でええのやなっ!?」
葵は弾の側に置いてあった三味線に近寄る。
指すり(指かけ)を左手に嵌めると三味線を取り、調弦(チューニング)を始めた。
「こんなもんやな」
そう言うと葵は肩に三味線を掛けて、バチを持ち曲を弾き始める。
(七年もブランクがあるとは思えへんなぁ。さすが、葵や)
弾はどこか嬉しそうでもあった。
♬♬ サクラ、サクラ~ ♬♬
三味線の音が大広間に響く。
三味線を弾く葵に岩田のカメラが近寄る。
「足は前っ! 開いて一歩出るっ! 一・二・三・四っ!はいっ回って!」
弾の声が激しさを増している。
「たもとを持って、左足!左手! 右足っ、やっとん やっとん やっとんとんっ! 一・二・三っ! すり足っ!」
このハイペースになんとか付いていけたのは汐音と萌、渡とハン、ケリアンと穂波だけだった。
他の者達は、扇子を落としてしまったり足がもつれて転んだりと散々な光景となった。
授業の開始から30分も過ぎた頃には誰もが息を切らし座り込む者まで出始めていた。
「ちょっと、休憩にしまひょ」
弾の声にアキ達は本心から救われたと思っていたのは当然であろう。
「休憩中もちゃんと正座しなはれっ!」
(あの厳しさ・・・、母親譲りか・・・。うちはあれが嫌やったんやけど・・・)
葵はふと子供の頃の事を思い出していた。
(いつも、うちの後ろに隠れていた弾が・・・、なぁ・・・)
葵の三味線は続いている。
「正座している間も退屈せんように、ちょっと曲を変えたるわ」
アップビートな旋律が三味線で奏でられる。
「おぉ・・・、曲はええねんけど、足がっ!」
八郎の足は体重がモロにかかって限界のようだ。
「二郎、お前よく平気やなぁ・・・」
「師匠、我慢が足りませんよ。心頭滅却すれば火もまた涼しです」
「わいは足が痺れてあかんのやぁ、火でも水でもない・・・。二郎、裏切りものぉぉぉぉ」
隣で正座し続けていた渡も苦笑するしかないようだった。

秋田県仙北市を出たゆかりは、東北自動車道を凡そ300KM強を走り山形県米沢市に入っていた
「やっばり、四時間と少しか・・・」

ここ米沢には白布(しらぶ)温泉があり、奥羽三高湯の一つに数えられている。
弱アルカリ性のお湯は源泉かけ流しであり、一分に1300~1500ℓものお湯が自然に湧き出している。
昔から火傷・神経痛・筋肉痛・関節痛に効果があるとされる名湯である。

ゆかりが訪ねたのは白布(はくふ)旅館、涼香の生家だった。
多分に漏れず、白布旅館でも女将が自慢の郷土料理を並べてゆかりを出迎えている。
「米沢牛の陶板焼き、すじ煮込みこんにゃく・・・、それと山女の塩焼きですね。かえって、お気を使わせてしまったようで申し訳ありません」
料理が並べられた器には全てに家紋が入っている。
(竹に雀、上杉家の家紋か・・・)
「いえいえ、ところで涼香はどんな具合ですか?」
これまで県内を出たことなど殆どないという娘の事が心配でたまらない気持ちが伝わってくる。
女将と話し込むこと小一時間、ゆかりはそれとなく本題を切り出す。
「ところで、白布(はくふ)家は上杉様と何かお関係が?」
「越後の頃からの親戚筋ですが・・・、何か?」
「いえ、お料理の器に家紋が入っておりましたので・・・」
「お若いのに家紋まで見られるとは・・・、やはり温泉の関係ですか?」
「まぁ、私の趣味もありますが・・・。松岬神社はお近くで?」
「車でしたら15分くらいですね。涼香もよく自転車で行っておりました。米沢城と一緒に見て行かれる方も多いんですよ。国宝の太刀も展示されていますし。涼香もいつもその太刀を見ていると心が奪われるというか・・・」
「ずっと見据えているとか?」
「そんな時っていつも微笑んでいたんです。変わった娘でしょ?」
(確か、上杉景勝所用 太刀 銘助宗 拵革柄革包太刀・・・)
「あっ、そうそう。もし良かったらですが・・・」
「何でしょうか?」
「宮城との県境に蔵王温泉というところがございまして・・・」
「存じてます、こちらと同じ奥羽の三高湯の一つですよね」
「ええ。そちらにかつて、最上様が各地のお大名様との交友で集められた品々を展示されている博物館が御座います」
「最上・・・、義光様でしたか」
「はい、代々伝わって来た物を沢山の方に見て貰いたいと私設で博物館を作られたんです。【戦国浪漫の里】と言いまして、なかなか賑わっているんですよ」
「面白そうですね。そう言えばもう少ししたら、確か樹氷祭りもありましたよね」
「えぇ、寒い時期ですが樹氷祭りと【戦国浪漫の里】を一緒に楽しまれる旅行が増えるんです」
(なるほど・・・、何か掴めるかも・・・)
もう少しすると、第一期生が入学して一年になる。
その機会を使ってミネルヴァの画策していることに大きく近づく為のアクションを起こさなければならないと思っていたゆかりにとって大きな進展となる情報であった。
(一度東京へ戻って学園長の考えを確かめておく事も必要ね・・・)
翌朝、ゆかりは山形新幹線に乗り東京へと戻る事としたのである。

さて、草津温泉では・・・
30分も休憩しただろうか、舞踊実習が再開された。
弾の指示で、渡・八郎・二郎・ケリアンがAグループに汐音・アキ・涼香・優奈・ハンがBグループに分けられた。
穂波・圭・七瀬・ミッシェル・萌はCグループである。
「さて、いよいよ本番ですなぁ。この三グループに順番で踊ってもらいまひょ。振付は自由でかまいまへん」
弾の合図で葵が三味線をスタートさせ、各グループは各々で踊りだす。
「さぁ、舞踊実習もいよいよ終盤となりテルマエ学園の生徒さん達がグループ別に踊りを披露していますっ!」
三波も興奮しているのだろうか、少し声が上ずってするようだ。
岩田もすずもカメラを構えて、アキ達の姿を追い続けている。
扇子を落としたり、手足を出し間違えたりするなどのハプニングはあるが弾は黙って見守っている。
そのまなざしはとても優しく温かい。
(思っていたより・・・、やるもんやなぁ)
「はいっ、お疲れさんでした」
弾の声とともに三味線の音が止まる。
「ありがとうございました!」
アキ達が一斉に頭を下げる。
(こんな気持ちのええ子ら、初めてやな・・・)
心でそっと呟く弾、そしてそれを見つめている葵の姿があった。

「皆さん、お疲れ様でした」
疲れ果てたアキ達に紗矢子から温泉玉子とお茶が差し入れられる。
それらを頬張りながら、羽を伸ばす姿はまだまだ子供とも思えただろうか。
「ところで、七瀬っ?」
「んっっ、何っ!?」
温泉玉子を頬張ったままアキを見る七瀬。
「あのさ、葵先生の弾いてた曲なんだけど・・・」
「あらっ!アキもっ!?」
「確かおばあちゃんの部屋で聴いたみたいな気が・・・」
「そう、萩ノ目・・・陽子?、で・・・、ダンシングなんとかって・・・」
「【ダンシング・ひろ】じゃない?」
いつのまにか涼香がアキの傍らで顔を寄せてくる。
「どっかの盆踊りにも使われて人気って、MHKでやってたし」
いつの間にか、優奈も話に加わっていた。
「あれねっ!あちも今年盆踊りで踊った踊った」
穂波も手を振りかざしながら話に乗ってくる。
「・・・で、それがどうしたの?」
萌も興味を示していた。
「アキちゃん・・・。もしかして、アイドル部でやってみようかって思ってるとか・・・?」
圭はアキの返事を聞くまでもなく分かっているような素振りを見せる。
「えっ、圭ちゃんっ! 何で分かるのぉ~っ!?」
「まぁ、なんとなく・・・ね」
「アキ・・・、あんた分かり易すすぎっ!」
七瀬の突っ込みに全員が爆笑する。
「分かったっ! ユニットリーダーはわたしがしてあげるっ!」
汐音が挙手して立ち上がる。
「あのね・・・、それと・・・」
アキが何かを話し出そうとしている。
誰もが次の言葉を待った。
「【ダンシング・ひろ】を京舞踊で踊るなんて・・・、どうかなって・・・」
「OHッ! アキ、それナイスなアイデアデースっ!」
いの一番にミッシェルが賛同した。
「良いよ、それっ! ハンも大賛成ッ!」
わいわいと盛り上がり、満場一致となったのだが誰も元の【ダンシング・ひろ】を見たことが無いのに気が付いた。
「どうしょう・・・?」
せっかくの盛り上がりだったが・・・、と思った瞬間。
「ダイジョーブだヨっ!」
そう言ったのはケリアンだった。
「でも、どうやって・・・」
不安そうな皆を見回したケリアンの視線が隅にいたカトリーナに向けられる。
「ネッ、カトリーナ?」
ケリアンの言葉を受けその場にいる全員の視線を一身に受けたカトリーナ。
「フッ・・・」
軽い吐息を漏らし、神業のようなスピードでキーボードを叩く。
画面には様々な場面で踊られている【ダンシング・ひろ】の画像が次々と現れてくる。
「これなら、やれるんじゃねっ?」
渡の言葉に皆が大きく頷いた。

「さて、それじゃっ!」
汐音の頭には次のステップが浮かんでいるようだった。
歌は涼香として、女子メンバーを中心に京舞踊を取り入れたダンスを踊ることまでは簡単に決まったのだが・・・
「やっぱ、三味線がなぁ・・・」
「ごめんなさい・・・、和楽器は自信無くて・・・」
学園祭の時のように涼香が弾ければ何とかなったかも知れないが、三味線となるとレベルが高すぎるようだ。
「仕方ない・・・、あちが話付けてくるわ」
穂波が立ち上がる。
「うちも行く」
穂波も立ち上がり大広間を出ていく。
「三味線となったら、弾先生と葵先生に頼むしか無いしね・・・」
圭が控えめに言う。
「でも、きっと引き受けてくれるよ」
「そうやな、わいら可愛い生徒なんやし」
「きっと、お前だけは可愛くないって言われると思うぞ・・・」
八郎に渡が突っ込み、大広間に爆笑がこだました。
「それとさ・・・」
「まだ、何かあるんか?」
恨めしそうに八郎はじろりと渡を見る。
「あの敬老会の人たちに観客になって貰うってのはどうかな?」
昨日の敬老会の面々の笑顔が皆の脳裏に浮かぶ。
「そうや、アキちゃんらが浴衣で踊ってテレビ中継ってのはどうや? DoDoTVの人たちもいるんやし!」
「師匠、ナイスなアイデアですよ。大賛成ですっ!」
二郎の趣向はだんだんと八郎に染まってきているようだ。
「あーぁ、やっばりルックスと発想は比例しているみたいねぇ。渡と八郎の違いっていうか・・・」
「ほっとけっ!」
イケメン好きの七瀬ではあるが、あの事もあり正直に渡に肩入れはまだしにくいのだろう。

大広間の喧騒が続く中、大広間の扉が開くき、穂波と優奈が戻って来た。
後ろには、弾と葵の姿もある。
一瞬静まり返る大広間、弾が口を開いた。
「話は聞きました。アイドル部がどうあるべきかなんて事はここで語るつもりもないし、皆がやりたいって言うんやったら・・・」
一瞬の空白があった。
「やりたい事があるんやったら、やるべきやと思います」
「わぁっ!」
「やったぁっ!」
アキ達は飛び上がって喜んでいる。
「葵は?」
皆の視線が葵に集まる。
「アイドル部の顧問が言うてるんや。うちも担任として依存は無い。皆がやりたい事を見つけてきたんなら、女将さんと敬老会の皆さんにも話をつけて来たる」
自分がやりたい事、しなければならない事を背負って来た姉弟だからこそ分かるものもあったのだろう。
「ただっ!」
葵の声だけが響く。
「弾と一緒に三味線弾くんは、ひっかかるけどな・・・。うちに付いて来れるんか?」
葵は挑戦的な視線を弾に送る。
「心配すなや。そっちこそ無理したら指、攣るで」
まさに姉弟ならではの微妙な掛け合いと言おうか。
「まぁ、DoDoTVにも話付けてきたるわ、頑張りや!」
「えっ、DoDoTV?」
先に大広間を出た優奈と穂波が顔を見合わせる。
「それくらいのこと、ちゃんと分かってるんやで」
にっこりとほほ笑む弾と葵。
(やっば、大人かぁ・・・)
穂波は少しだけだが弾と葵の優しさに触れたような気がしていた。
一方、葵も・・・
(二つ違いでも、年下の面倒はちゃんと見るか・・・。思ってたより大人かも・・・)
弾と葵が大広間から退出した後、アキを中心に皆が集まっている。
(周りを巻き込んで、いつの間にか同じ方向を向かせているか・・・。まるで風車みたいな奴だな・・・)
そう呟いた渡は何かを思いついたように、スマホを片手にそっと大広間を後にした。
「あぁ、それで・・・200もあれば。そうだな・・・、【紅の風車】で・・・」
電話を切った渡は何げない顔をして皆の所へと戻って行った。

夕方の六時を過ぎた頃、宴会場には敬老会の面々が着席し、開演するのを今や遅しと待っていた。
「お待たせしました。只今より緊急企画!、テルマエ学園アイドル部の第一回温泉公演が始まろうとしています。ここは私、DoDoTVの突撃リポーター 濱崎三波が独占中継させて頂きます!」
宴会場は否が応にも盛り上がっている。
「更に今回は特別ゲスト参加として、京舞踊松永流三代目家元の松永弾さんも特別参加して頂くとの情報も入っております!」
葵の存在を敢えて発言しないのは単なる偶然か否かは、読者の判断に任せておこうと思う。
「あっ、アイドル部の皆さんが入場してきました。なんと今回の公演では京舞踊を取り入れた新しい何かが演じられるということです、しかも浴衣姿なんですよ! いかがですか? 楽しみですよね?」
三波は近くにいた老人にマイクを向ける。
「いやいや、若いっていうのは良いのぉ・・・」
「なんだかよく分かりませんが、とにかく楽しみで仕方が無いようです!」
惚けた返答をうまく切り回しているうちにアキ達が壇上に並び、三波も演壇へと移動する。
「歌は、白布涼香さん、踊って頂くのは左から 向坂汐音さん・ミッシェル アデルソンさん・温水アキさん・ハン ツァイさん・星野七瀬さん・平泉萌さん・源口優奈さん・塩原穂波さん。大洗圭さん 総勢十名のエンターティメントショーのスタートです!」
岩田のカメラは三波の紹介に合わせて、一人一人を順に撮影しているが・・・
すずのカメラは少し渡に向く時以外は、弾に向きっぱなしだ。
「堀井~、頼むから生徒を映してくれぇ~」
三橋は最早懇願モードに入っている。
「ハッ!」
弾のかけ声とともに、葵と並んだ三味線二竿がメロディを奏で始めた。
♬♬ ジャカジャカジャジャジャッジャンジャーン~ ♬♬ 
と、同時に宴会場の照明が一斉に消える。
「なんじゃ、こりゃっ?」
「まさか、停電かぁ?」
驚いた敬老会の面々がざわめく。
一瞬の間を空けて、DoDoTVの照明班がアイドル部の姿をスポットライトで浮かび上がらせた。
中央には涼香が立っている。
♬♬ 今夜だけでも、メルヘンボーイっ!Do you wanna dance tonightッ ♬♬
マイク無しでもよく通る声が宴会場に響く。
アキ達は涼香の左右に広がって扇子を回してみたり、手を振り足をとんとんと踏みながら踊っている。
(バラバラな動きやけど、舞踊の基本動作は覚えたみたいやなぁ)
三味線を弾きながらも弾は感慨深そうにアキ達を見つめる。
一方、葵はと言うと・・・
(白布涼香やったか・・・、何やのこの声域の広さ・・・。この子らホンマに何かあるんやな・・・)
圭の一件を思い出し、これから起こる事は想定外ばかりになると感じていたようだ。
「ええぞーっ!」
踊りはバラバラだが一生懸命に踊り、愛嬌を振りまいている姿は敬老会の面々にも受け入れられていた。
様子を見ていた渡とケリアンがペンライトを右に左にと振りかざすと、同時に八郎と二郎が敬老会の面々に点灯したペンライトを配っていく。
会場に流れるリズムと渡たちの動きに誘われて皆がペンライトを左右に振っている。
途中、アキとミッシェルの脚がもつれて転んでしまい浴衣がはだけるハプニングもあり、その瞬間は八郎と二郎の手が止まっていたのだがご愛敬にしておこう。
「こりゃ、盆踊りの歌じゃのう」
「皆、頑張っとるわい」
「三味線とは、また風情があるのう」
こうして宴会場は誰もが盛り上がり、興奮の渦に巻き込まれていた。

~♬♬
演奏とダンスが終わりアキ達は息を弾ませながら横一列に並び、客席に向かって頭を下げる。
「ありがとうございました」
会場は大波のような拍手の音で埋め尽くされていた。
「凄いパフォーマンスでした、テルマエ学園アイドル部の皆さん!お疲れさまでしたぁ!」
三波のアナウンスが入ると同時にスポットライトが三波へと切り替えられる。
「これでテルマエ学園密着取材~草津温泉編~は終了です。さて、今度はどこの温泉でどんなパフォーマンスが繰り広げられるのでしょうか。次回もお楽しみにっ! 以上、濱崎三波がお伝えしました」
「OKっ!」
三橋も思わずグッショブサインを出しており、かなり満足したようだ。
アキ達は宴会場の出口に一列に並び、退出していく敬老会の一人一人と握手を交わしている。

「良い映像が取れましたよ」
三橋が弾に近づき握手を求める。
「こちにこそ、無理をお願いしてしまいましたな」
弾は差し出された三橋の手を力強く握り返した。
舞台の袖では、葵と紗矢子が話している。
「良かったら、定期公演しません?」
「いえ、まだまだしっかりと修行させてきますよって・・・」
「じゃぁ、その時までお待ちしますわ」
(ゆかりの生徒か・・・、私もうかうかしてられないみたい・・・)
DoDoTVのメンバーも引き上げ、落ち着きを取り戻したアキ達、ふと気が付いた事があった。
「あのペンライト、どこから出てきたんだろ?」
アキの素朴な疑問は誰もが同じ事を思っていたようだ。
「八郎と二郎が配ってたよね・・・?」
七瀬は八郎を見る。
「いや、そこにあったし・・・」
「学園長とかじゃねえの?」
穂波の言葉に優奈が応える。
「それにしては準備が早すぎるし・・・」
「盛り上がったんだから良いけどね」
汐音はあくまでもクールだ。
「ニューヨークの摩天楼みたいに綺麗ダッタヨ」
ミッシェルがそう言った瞬間に二郎が何かを思い出したようだ。
「そう言えば、渡とケリアンが最初にペンライト振って・・・、すぐ近くに段ボールがあって・・・」
「ふーん、渡? ケリアン? どこからその箱持ってきたの?」
圭は何か答えを期待しているような口調で問いかける。
「渡。ワカル?」
ケリアンが渡を見る。
「知らね、置いてあった段ボールみたらペンライトが入ってたから使っただけ」
渡はペンライトの出所にはまったく興味が無いようだ。
「女将さんとか?」
萌は、振り返って涼香を見る。
「でも、あの演出は知らなかった筈だし・・・」
「先生たちとか・・・」
「だったら、練習とか打合せの時に言うと思うよ」
アキも七瀬も狐につままれたような気持ちになっていた。
「あっ、これっ!」
二郎が指さしたのは、段ボールに張られた荷札である。
「えっ、当日配達便?」
かなり急いで配達されたのだろう。
「受取人は、テルマエ学園アイドル部一同様、差出人は・・・、【紅の風車】?」
「【紅の風車】って何や?」
「さぁ、暗号とかですかねぇ?」
八郎と二郎が考えても何が何やらさっぱり解からない。
「ファンとかジャナイ?」
ハンの言葉に、ファンと聞いた皆が互いに顔を見合わせている。
「【紅の風車】、フランス語だと、【ムーラン・ルージュ】って言ウンダケド・・・」
ケリアンが独り言のように呟く。
「【ムーラン・ルージュ】・・・」
何故かその言葉が気に掛かっていたのはアキだけではなかったようだ。
ただ、圭だけが悪戯っぽく微笑んでいたことは誰も気付いていなかった。

RrrrRrrrRrrr
「橘先生、夜分遅くに恐れ入ります。今、よろしいでしょうか?」
「何かありましたか? 松永先生」
一応は報告しておいた方が良いと思った葵がゆかりに電話をしている。
「実は敬老会の宴会場で京舞踊をアレンジしたダンスをアイドル部として公演しました。うちの一存で勝手な事をして申し訳ありませんでした」
葵はあの場の乗りで公演を承諾させた事をゆかりから叱責されるものと思い込んでいた。
(大洗圭の話が正しければ、橘先生は女将に借りを作ってしまった事にもなる・・・)
それ相応の処分があっても自分一人でその責任を負い、弾やアキ達には波及させないと決めた上での事であった。
だが、ゆかりの返事は・・・
「今は貴女が担任です。私の出る幕ではありません・・・。で、結果は?」
「それが予想外に大盛況で、敬老会の方達からも拍手喝采で・・・」
いつの間にか嬉しそうな話し方になっていたのは葵本人も全く気付いていない。
(思っていた以上ね・・・)
一呼吸置いて、ゆかりが葵に返答した。
「わかりした。学園長には私から報告しておきます。ご苦労様」
PooPooPoo
ゆかりとの通話は前回と同じように一方的に切られた。
「また、一方的っ!? 本当にあの橘ゆかりって女、何なんやっ!」
憤る葵であったが、幾分ホッとしていたのも事実であろう。

(弾はともかく、葵は学園長の見込み違いじゃないかって思ってたけど・・・。私の読み違いのようね)

「はぁ、疲れたぁ・・・」
中継で疲れ切った三波が廊下を歩いていくと先に弾の姿が見える。
(やったぁ、これってもしかしてチャンス到来っ!?)
何かきっかけを作って声を掛けようとし、周りに誰もいないことを確認しようと振り返った先に・・・
(えっ、何でっ!?)
三波の視線の先には、葵と弾の姿が・・・
さっきまで自分の前に居た弾が後ろに居るなんてことはあり得ない。
もう一度前を見直すと、そこには紗矢子の姿があった。
「どうかなさいましたか?」
「いえ・・・、その人を見間違えたみたいで・・・」
紗矢子はクスクスと笑いながら言葉を続ける。
「そう言えば、この辺りには送り狐っていう昔話があるんですよ」
「送り狐?」
紗矢子の話では、ずっと昔、この地に化け狐がいて夜道を通る人々を妖怪に化けて旅人を脅かしていたというものだった。
ところがある日通りかかった山伏によって調伏され、村人達に突き出された化け狐はこれまでの恨みとばかりに殺されてしまいそうになった。
だが、山伏は化け狐を助けるよう村人達を説得し、化け狐は夜道の守り神となり旅人を安全に通行させるようになったというものだった。
「化け狐ねぇ・・・」
「まぁ、その後も人に化けたりしたらしいとも言われてますけど・・・」
紗矢子はかんらかんらと笑いながら三波に背を向けて歩き出した。
くるりと後ろを向けた瞬間、ファサッと何かが廊下を撫でるような音が聞こえたかと思うと、紗矢子の足元にフサフサとした何かがキラッと光った。
(えっ、しっぽ・・・?)
「どうしたんですか、三波さん?」
後ろから呼ばれて振り返ると、そこにはすずが笑っていた。
「あのねっ! すずちゃんっ!?」
そう言いかけて、紗矢子を改めて振り返る三波。
だが、そこに紗矢子の姿は無かった。
「あのーっ? 三波さん?」
すずは三波に何か起きたのか全く解からなかった。
「ねぇ・・・、すずちゃん・・・」
「はい?」
「すずちゃんは、本物よね?」
「何言ってるんですかぁ、もう」

どうやらDoDoTV局内の噂は本当なのかもしれない・・・

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