第八話 「敬老会は、コンパニオンがお好き?」|東京テルマエ学園・漫画・小説サイト

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第八話 「敬老会は、コンパニオンがお好き?」

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上野駅から特急草津に乗り、およそ二時間二〇分の電車の旅。
アキ達は、葵・弾に伴われて草津温泉へと向かっていた。
目的地は【季(とき)・たちばな】、草津温泉を代表する老舗旅館であると同時に、ゆかりの生家でもある。
ゆかりは先日にアキ達の担任を外れたのだが、コンパニオン実習の場所としてここを手配していた。
「いらっしゃいませ」
沢山の仲居達がアキ達を出迎える。
入口にある歓迎板には、【テルマエ学園 御一行様】の他にも【DoDoTV 御一行様】や【〇×敬老会 御一行様】等、数多くの名前が書かれている。

仲居に案内されて受付へと向かった弾に一人の女性が話しかけた。
「いつもゆかりがお世話になっております。女将の橘紗矢子です」(橘先生のお母さんか? それにしては若すぎるように見えるが・・・)
事実、どう見ても姉妹かと思える見た目だった。
「お世話になります、テルマエ学園一期生担任の松永葵です」
弾の横から葵が身を乗り出すようにして女将との挨拶を交わす。
(橘先生も久しぶりに御実家へと顔を出したかっただろうな・・・)
キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回しているアキ達だったが、只一人 圭だけが女将を見つめていた。
「・・・、では。」
話を終えた葵と弾がアキ達のいる場所へと戻ろうとした時、圭が二人を呼び止めた。
「先生っ!」
葵と弾が同時に振り返る。
「あの女将さん、ゆかり先生の継母ですよ」
「えっ!?」
突然の圭の言葉に二人とも反応出来ないでいる。
「あの女将さん、ゆかり先生が来なくてホッとしてますよ・・・、きっと」
「何で・・・?」
「あたし・・・、そういうのって分かっちゃうんですよね」
圭は悪戯っぽく笑う。
(何なの・・・、この娘・・・。そういえばこの娘達の事でおかしなことがあったら直ぐに連絡するようにって言われてたし・・・。一応、電話しておくか)
「弾、皆を連れて大広間に行っておいて。うち、橘先生にちょっと電話してから行くから」
「葵が担任なんだから、直ぐに来いよ!」
「分かってるっ!」
弾はアキ達を連れて、大広間へと向かった。
葵はスマホを手に持ち、人気のない廊下でゆかりに電話を架ける。

Rrrr Rrrr
数回のコールですぐにゆかりが出た。
「松永先生? 何か?」
「大洗圭なんですが、おかしな事を言ってまして・・・」
「おかしな事って?」
「ここの女将が橘先生の継母だとか、先生が来なくてホッとしてるとか・・・」
(大洗圭・・・、能力はエスパスか・・・。それにしても、紗矢子が継母で私を嫌っていることまで分かるなんて・・驚きね)
「あの、聞こえてます?」
葵の声でふと我に返るゆかり。
「えぇ、報告は聞きました。ご苦労様」
ゆかりが電話を切ろうとするが、葵が食い下がる。
「こんな事まで予測してたんですかっ!? 何がどうなってるんですかっ!?」
「今の貴女に関係ありません。実習の件、宜しくお願い致します」
Poo Poo Poo
一方的に電話を切ったゆかりに対し、葵は憤慨の頂点に達していた。
「あの女もそうだけどっ!この学園って、どうなってんのよっ!?」

その頃、DoDoTVの取材班もテルマエ学園の温泉実習取材の為に草津温泉へと向けて車を走らせていた。
「ったく、何で急に社長直々に俺たちを指名するんだよっ!」
「きっと、ミネルヴァ学園長からじゃないですか?」
いらつく三橋にハンドルを握っている岩田が答える。
「だからって、草津温泉の授業風景を撮影だけじゃなくて中継までしろってんだぜ。いくら【テルマエ学園密着取材~草津温泉編~】って番組だって言ってもよっ!」
三橋が文句を言うのはいつもの事であり、スタッフたちは慣れているようだ。
「でも女の子たちの入浴シーンとかだったら、視聴率も結構いくんじゃないですか?」
岩田は撮影が楽しみな様子だ。
「それに今回は、橘ゆかりも来ないんですから、色々とチャンスですよね!」
前回の一件から、三波とゆかりは馬が合わないらしく、今回はゆかりが居ないってことでとても乗り気になっている。
「橘ゆかりって誰ですか?」
「高飛車で嫌な女なのよ、こーんな目をしててっ!」
三波は両人差し指を目じりに当てて、両目を吊り上げてみせる。
「おいおい」
三橋が頭を抱えながら口を挟む。
(まったく、ここまで相性が悪いとはな・・・)
「堀井も今回は撮影に入って貰うからな」
「はいっ! 頑張りますっ!」
「でも・・・、三波さん?」
「んっ、何?」
「局で何人かに言われたんですけど・・・」
「あぁ、あの事?」
「じゃ、ホントなんですか?」
「おい、やめてくれよ・・・」
「三橋さん、苦手ですもんね」
三波が笑いながら答える。
DoDoTVの局内ではひとつの噂があった。
それは三波には霊感体質があるというもので地方撮影に行くとなぜか心霊現象に遭遇するというものだった。
「この科学万能の世の中にそんなもん、あってたまるか」
「まーた、強がっちゃてぇ」
嘯く三橋に岩田がチャチャを入れる。
「この前の京都でも何もなかったんだ・・・。大丈夫・大丈夫、きっと大丈夫・・・」
三橋はおまじないのように大丈夫と繰り返して呟いていた。
(まったく、それ系はまったく苦手な人だからなぁ)
岩田の能天気さは三橋の精神安定剤のようなものとも言えるだろう。
「三橋さん、もう少しで着きますよ」
岩田の声に三橋が応える。
「じゃ、気を取り直して行くぞっ!」
DoDoTVの中継車も、【季(とき)・たちばな】へと到着した。

大広間では、葵がコンパニオンの授業を始めていた。
「コンパニオンにはイベント・パーティ・ピンクの三種類がありますけど、皆さんに体験して貰うのはパーティコンパニオン。旅館なんかで飲食の接待をしまます。料理の取り分けとか、お辞儀の仕方とか大事かな。まぁ、皆さんも旅館の関係者やから解
かってると思うけど」
一呼吸をおいて、葵は言葉を続けた。
「まぁ、実践あるのみっ! 体で覚えなさいっ! 以上っ!」
どうやら葵は人に教えることが苦手なようだ。
あまりにも淡々とした教え方で、誰もが困惑していた。
「先生っ!!」
七瀬が手を上げた。
「えっと、星野さん?? 何やの?」
「授業が簡潔すぎて全く解りません!!」
誰もが同じことを思っていたのであろう、視線が七瀬に集まる。
「まぁうちは、バイトもしてるから解るけど・・・。その説明はいい加減過ぎなんじゃないですか?」
優奈が七瀬に同調する。
「あちも同じ意見。これで解かれって言うほうが無理っ! 皆もそうと違う?」
穂波が皆の顔を見回すと、誰もが一様に頷いている。
「いやぁ、わいはピンクコンパニオンのことをもっと詳しく聞きたいわぁ」
ニヤニヤしながら八郎が言った、その瞬間。
バシーンッ!!
テーブルを激しく叩く音が大広間に響いた。
「お前らっ! うちの授業が解からんって言うなら出て行きっ!」
葵の怒声に驚き誰も言葉を発せない。
「うちは頼まれたからやってるだけで、こっちから頼んだんやないっ! 出て行かへんのやったら、うちが出て行くっ!」
誰もが呆気に取られている中、圭だけが皆とは違った視線で葵を見つめていた。
ガラッ!!
荒々しくドアを開けて、葵は大広間を後にする。
誰もが次に為すべきことが見えず黙って座っていたが、一人 圭だけが席を立った。
「ほっときなっ!」
そう言う穂波に圭が言葉を発する。
「皆、言い過ぎたって思ってるんでしよ? 先生だって同じ、だったらほっとけないよ」

大広間を荒々しく出た葵、先の廊下では壁を背もたれにして腕組し立っている弾の姿があった。
「・・・っ」
黙ってその前を通り過ぎようとした葵の後ろ姿に弾が語り掛ける。
「七年前と同じように、また逃げるんか?」
「弾っ!」
葵が何か言うのを遮るように弾の言葉が続く。
「嫌やから、思い通りになれへんからって・・・。また、投げ出すんか?」
「あんたに、何が解かるんやっ!!」
「そうやって、勝手ばかりしおってっ!!」
弾と葵、互いの視線が激しくぶつかる。
まるで各々の背に、龍と虎が浮かび上がってくるかのような激しさだ。

この煉獄のような空間に割って入ったのは、圭であった。
「弾先生も葵先生もお互いに人には言えない苦労があったんですよね・・・」
(な・・・っ!)
葵は圭がここの女将とゆかりとの関係を察しそれを報告した時、ゆかりの挙動が不審に感じたのを思い出した。
(まさか、本当に考えていることが・・・)
圭の言葉に対する葵の態度を不信に感じる弾。
その弾に振り返って、圭が話しかける。
「弾先生も少し落ち着いて下さいませんか。いくら心に思う事があったとしても・・・」
(な・・・、何なんだ? この娘・・・?)
不思議だが、圭の言葉を聞いているうちに弾も葵も高ぶっていた感情が収まってくるのを感じていた。
「本当は、仲の良い姉弟・・・、なんですよね?」
圭は微笑んでいる。
「かなわんなぁ・・・」
「ほんま・・・」
弾と葵は顔を見合わせて大きなため息をついた。
「葵先生、ご自分の経験を話そうとしたのにうまく伝えられなかったんじゃ・・・」
「そうなのか? 葵?」
「まあ・・・、な」
圭が微笑みながら言った。
「大広間に戻りませんか? 弾先生も一緒に!」
不思議に思う者もいるだろう、弾までが揃って圭に付き添われて戻ってきたのだから。

大広間では、葵が出て行った時のまま時間が止まったように皆が座ったままだった。
「あっ、圭ちゃん」
大広間に戻った圭を見て、アキが見つける。
その圭の横をすっと通り抜けて、葵がテーブルの前に立つ。
「授業中にすまなかった」
葵が頭を下げる。
「では、ここから授業を再開ですなぁ・・・」
弾がゆったりとした口調で話す。
それからの葵の授業は先ほどまでのものとは打って変わって、自身の体験を交えながらのものであり誰もの興味を引くものに変っていた。
臨機応変な対応が望まれる事、清潔感重視の美しい立ち振る舞いが好印象を与える事。
そうしてことで人脈も作れ、自分を磨いていくことにも繋がる事。
全てにおいて聞きやすく、授業終了の際には自然と皆から拍手が起こっていた。
もっとも大きな拍手を送っていたのが、優奈であったことも敢えてここで触れておこう。
後ろで聞いていた弾も心無しか口元が緩んでいる。
「以上っ、質問は!?」
葵の問いに圭が手を上げた。
「大洗・・・、さん?」
「はいっ!関係ないかも知れませんが、お二人のことを弾先生と葵先生って呼んでも良いでしょうか?」
弾と葵は少し前の事を思い出した。
(そう言えば・・・、あの時・・・)
二人は顔を見合わせる。
「良いんじゃねっ? 松永先生だとどっちか分からなくなるし」
「そうや、ゆかり先生のときもそうやったし」
穂波の言葉に八郎が応える。
大広間にどっと歓声が広がった。
(こいつら・・・)
「皆、これからしっかりと鍛えてやるから覚悟しなよっ!」
「はいっ!」
「はい!」
「はいっ!」
アキ達が次々と返事をしていた。
強気の言葉を発した葵の目に少しだけ涙が滲んだ事に気付いたのは、弾だけだっただろうか。

その頃・・・
「ここが、萌の実家ね」
秋田新幹線・こまちで三時間と少し、岩手県との県境に近い、仙北市。
ゆかりは駅からレンタカーを利用してここを訪れていた。
平泉庵は秋田乳頭温泉の一角にあり、門前には、大きく家紋が描かれている。
「五本扇骨に月丸・・・、佐竹家の家紋か」
「すいません、テルマエ学園の橘と申します。女将さんは居られますか?」
この訪問は表向き生徒達の生家の家庭訪問ということになっている。
生徒達には知らせずに秘密裡に行っているのだが、本当の目的はテルマエ学園に集められた八人の少女達に纏わる何かを探しての旅でもあった。
各々の生家、そして痣の有無は穂波によって事前に調査されていたのだが、詳しくは別の機会で語られることであろう。

ゆかりが訪れたここは、秋田藩主の湯治場として知られた秘湯である。
乳白色の湯が特徴的であり、混浴露天風呂があるが湯気が濃く体が見えないということもあり特に若い女性に人気が高い。
また、美肌効果から『美人の湯』とも呼ばれており飲む事も出来るしリウマチにも効果がある。

湯から上がったゆかりは女将の用意した郷土料理を前にしていた。
「冬でしたら、キリタンポ鍋もありますが、今の季節ですと味噌タンポになります」
テーブルの上には、味噌タンポの他、ハタハタ寿司やいぶりがっこ(大根を燻製にした漬物)が所狭しと並んでいた。

「では、平泉家は・・・」
「えぇ、なんでも佐竹家の分家だと聞いています。ほとんど、直系らしいんですが・・・」
(なるほど・・・、直接聞けば納得できるわね)
「菩提寺ってお近くなんですか?」
「いえ、秋田市にある天徳寺って言うお寺で二時間くらいかかりますが、何か?」
女将は菩提寺の事を聞くとは珍しいと感じているのだろう。
「いえ、なんとなくです。明日にでも行ってみようかと思って」
「特に何もないお寺ですけど、静かなところは気に入ってるんです」
「ちなみに、萌さんが天徳寺に行かれたことは?」
「毎年、お盆には。でも、あの子っていつも御墓の前でぼうっとしてるんです」
「佐竹様のご関係の?」
「初代 佐竹義宣様のですが・・・」
「ありがとうございました」

翌日、ゆかりは天徳寺を訪れていた。
(住職も萌が墓前でぼうっとしていたことを覚えていた・・・、間違いないわね)
もし、ゆかりの考えが正しければこれから向かう所でも同じような事が起きている筈、それが積み重なれはミネルヴァの思惑が当たった事にもなるだろう。
「次は、米沢か・・・」
ゆかりはカーナビに米沢市の住所を入力し、車を出発させた

渡と八郎、二郎とケリアンが大きな箱を両方が支え持ち大広間へと運んでいた。
大広間へと運ばれた大きな箱を前にして葵の声が響く。
「よーし、開けてっ!」
開けられた箱にはピンクとブルー、そしてグレーの作務衣が入っている。
「実習中は、この作務衣を着て貰います。男子はブルーのものを女子はピンクのものに着替えるように」
葵の指示が飛ぶ。
「ちょっと、恥ずいんだけど・・・」と汐音。
「これは・・・、さすがに・・・」と涼香
あちこちで戸惑いの声が聞こえる。
ただ、アキだけは「ピンクだよっ、可愛いねっ!」と無邪気に喜んでいる。
更に着替えてみて分かった事だが・・・
ピンクとブルーの作務衣はラメ入りであり背中にでかでかとテルマエ学園とプリントされているだけでなく、前襟には各実習生の名前までプリントされていたのである。
「普通、作務衣って紺とかグレーだよな。しかも、ラメ入り・・・。学園長の趣味の悪さが爆裂してるぜ・・・」
文句だらけの渡だが、作務衣姿もなかなかのものだ。
「サムエ・・・、面白いデース」
ケリアンは日本の物なら何でも喜ぶのだろうか。
「動きヤスイし、パンッも見えナイっ!素晴らしいヨっ!」
ハンも気に入ったようで、回し蹴りのスタイルを取っている。
「いや・・・、わいは動きにくいねんけど・・・」
八郎は作務衣からお腹がはみ出しそうだ。
「八郎っ、作務衣が気の毒だよぉ」
笑い広げている穂波に優奈も同調する。
「くっくっくっ、八郎・・・っ! あんた何着ても笑えるよっ!」
「何笑ってんねん!」
憤慨した八郎が振り向いた先にミッシェルがいた、じっと八郎を見ている。
「ミッシェル・・・」
「八郎、マジでヤバいデース」
勝手に勘違いした八郎にミッシェルの言葉が突き刺さった。
「わぁぁぁぁっ! あんまりやぁ、ミッシェルまでぇ」
居た黙れなくなった八郎が走り出そうとした瞬間、前にいた二郎にぶつかりバランスを崩して前のめりに転倒した。
両手両足を広げて畳にダイブした八郎・・・
「・・・八郎。お前、まるでカバみたいだぞ・・・」
渡の呟きに爆笑の渦が起こった。
ガラっと音を立ててドアが開く。
「何をしているのっ?」
声の方を振り向くと、グレーの作務衣姿の葵が立っている。
「あっ、普通のヤツっ、ずるいっ!」
皆が口々に言いだす。
「普通もなにも・・・、ぶっ!」
葵の来ている作務衣にはラメもプリントもされていない。
だが、生徒たちのものは・・・、葵も吹き出さずにはいられなかった。
(学園長・・・、趣味悪すぎ)
「どうした? 葵?」
遅れて大広間に入って来た弾も派手派手なピンクとブルーの作務衣を見て苦笑するしかなかった。

夕食の時間となり、いよいよアキ達のコンパニオン実習が始まった。
男性陣は、料理の配膳や布団の上げ下げなど力仕事を弾の指示で行っている。
唯一、作務衣の洗礼から逃れられたカトリーナは、紗矢子と一緒に旅館のネット予約やらブログの更新などで一役買っていた。
特に紗矢子が驚いたのはカトリーナの分析に従って出した広告にはすぐに予約の申し込みが入ることだった。
(へぇ、こんな生徒達がいるなんてね・・・。ゆかりも油断できないわね・・・)
紗矢子にも色々と因縁がありそうな気配が漂っていた。

宴会場は平日ということもあり、様々な地方からの団体客が多かった。
「お酒、お注ぎしますね」
「おう、ありがとう。よく気が利くのう」
孫娘のような涼香にお酌された敬老会の面々、ついつい顔がほころぶ。
宴会のメインは、おっきりこみ。
舞茸・大根・里芋・ごぼう・なす・油揚げ・鶏肉を味噌と醤油で煮込み、
乾麺をいれた郷土料理である。
ハンとミッシェルが取り分けを手伝っている。
「外人さんもべっぴんじゃのう」
「まるで竜宮城に来たみたいじゃ」
敬老会の面々はご満悦のようだ。
接客の様子は、DoDoTVによって撮影されている。
三橋の指示で、すずがカメラを持ち岩田が側について実習の邪魔にならないよう気を使って撮影を続けている。
「堀井、この後はお前一人で撮るんだからしっかりとな」
「はい、岩田さん」
堀井と呼ばれた女性、まだ社会に慣れていない感じはアキ達とあまり変わりないようだ。

「はい、ここはテルマエ学園の実習現場です。今回も、私・・・」
三波も視線の先には、弾の姿があった。
(やっりぃ! あれは京舞踊の家元・・・。やっぱ、イケメンは目の保養になるわぁ。でも、あの女、何っ!)
弾と並んで立っている葵を見て三波の表情が一瞬曇る。
(あーん、せっかくのイケメン家元との再会なのにぃ。橘ゆかりといい、あの女といい・・・)
「三波、インタビユーっ!」
耳に付けたイヤホンから三橋の指示が聞こえる。
「それと、堀井っ! お前も男ばっか追ってるんじゃねぇ!」
すずも無意識で弾の姿に見とれてしまい、弾の映像がずっと映っていたのだ。
「えーっと、では・・・」
三波がインタビユーをしようとした途端に真下から、声が掛かる。
「あんたはお酌してくれんのかのう?」
人の好さげな老人の縋るような視線、三波も心動かされるものがある。
「ごめんなさいね・・・」
そう言おうとした瞬間、イヤホンから三橋の声が聞こえた。
「多少のイレギュラーは有りだ。臨場感のある方がいい」
三橋の指示を聞き、こくりと三波は頷く。
「じゃあ、わたしも少しお手伝いしちゃいましょう」
三波も座りこみ、お酌し始める。
宴もたけなわになったころ、お膳の交換に男子生徒達も宴会場に姿を見せる。
(あらぁっ! イケメン登場っ!)
(うわっ、若いっ! イケメンっ!)
三波の視線とすずのカメラが渡にと向けられる。
「堀井っ! 宴会の接待を映せっ!」
小声で岩田から注意を受けたすずが慌ててカメラを戻す。
「こんだけブレまったら、使える映像、少ねぇな・・・。加工かよ、まったく・・・」
三橋が頭を抱えていた。

「皆さん、そろそろお開きの時間ですので・・・」
紗矢子が宴会場へと入って来た。
「これだけ盛り上がった宴会、久しぶりに見せて頂きました。テルマエ学園の皆さんのおかげですね」
紗矢子は弾とゆかりの深々と頭を下げる。
「どうでしょう、せっかくの機会ですから皆さんで記念撮影でもされたら・・・」
「おぉっ、ええのう!」
「こんな楽しい宴会、初めてじゃったわ」
「寿命が十年延びた気がするのぉ」
敬老会の面々もすっかり乗り気になっていた。

そして敬老会の面々とアキ達そしてDoDoTVのメンバーも加わっての記念撮影が予定外に行われた。
「ハイっ、チーズ!」
シャッターを押したのは、紗矢子である。
無論、葵や弾も同じ写真に納まっていたのは言うまでもない。

暫くして宴会場もお開きとなり、敬老会の面々は各々宿泊室へと引き上げ、テルマエ学園の関係者とDoDoTVの関係者だけが残っている。
沙矢子が仲居を連れて、人数分の緑茶と温泉まんじゅうを持って来ていた。
「皆さん、お疲れ様でした。敬老会の方たちもとても喜んで頂けたようですしお礼と言う訳ではありませんが、是非 当館自慢の温泉を堪能して頂ければと思います。湯上りの後にはお食事も用意させて頂きますので・・・」
沙矢子の言葉の終わる前に、緑茶と温泉まんじゅうはアキ達のお腹に納まっていたのだが・・・。
葵と弾も不思議な充足感を感じている。
「なあ、弾、うち、あの娘達とやったらやって行けそうな気がするんやけど・・・」
「葵・・・。何となくやけど、俺もそんな気が・・・」
「でも・・・、あんたに負けるつもりは無いでっ! 明日の京舞踊の授業もしっかりと見届けたるわっ! 弟の面倒を見るのも、姉の務めやしなっ!」
「ほうっ! 家元に向かってよう言うわっ!」
葵と弾、七年のわだかまりがほんの僅かではあったが少しだけ溶けかかっていたように思えた。
(大洗圭だったか・・・)
(ここに来て、正解だったのかも・・・)
言葉にこそ出さないが、二人ともテルマエ学園の生徒達のお陰と感じているのは明白であろう。

「ここ草津温泉は50℃の源泉ですが水を加えず湯もみ板で混ぜて、42℃まで下げているんですね。今回はテルマエ学園の生徒さんたちが今まさに体験学習の真っ最中ですので、私 DoDoTVの濱崎三波も独占・突撃インタビューさせて頂きますっ!」
三波にカメラを向けているのは、すずである。
カメラには、湯もみガールを背景にした三波がアップで映し出されている。
湯もみの歌を歌いながら、湯船を撹拌している湯もみガールズ、その中に混じって実習中の生徒を見つけて三波が近寄る。
「如何ですか? えっと、大洗圭さん?」
三波は作務衣の前襟を見ながら、インタビューする。
「はぁ・・・、熱いししんどいし・・・、辛いですね・・・。・・・。あっ! カメラあっちですかっ!五郎っ!見てる~っ!?」
圭がカメラに向かって手を振る。
「あっちは湯もみ歌に合わせて、ダンスを踊っているみたいにノッてますねっ!」
三波は、汐音の隣へと移動する。
「えっと、向坂汐音さんですねっ? 如何ですか?」
「良い感じのビートで楽しいです!」
汐音は湯もみ歌のリズムと完全に同化している。
「こちらは眼鏡っ娘の白布涼香さんっ、どうですか?」
「えっ!? ただ、汗だくなんですが・・・」
涼香は吹きだした汗でメガネがずり落ちそうになっている。
萌・優奈・穂波・七瀬はコツを掴んだようで上手く混ぜているが、アキは余計な所に力が入っているのだろうか直ぐに疲れてしまい座り込んでしまった。
一方、ミッシェルとハンは日本の温泉文化と言ってはしゃぎ続けている。

実習時間も終わり、アキ達も温泉に浸かる事となった。
但し、DoDoTVの中継は続く事となる。
「ふあぁぁぁ。気持良いよぉ・・・」
アキ達は体にバスタオルを巻き、足元からかけ湯をしてゆっくりと温泉に浸る。
これまでの疲れを癒すように手足を伸ばすアキ。
「アキ、おっぱい浮いてるよ」
七瀬が突っ込む。
「もう、どうでも良いよお・・・」
アキの疲労はピークに達しているようだ。
「くうっ、この熱さこそ温泉の醍醐味だよなぁっ!」
穂波は思わず、声が出たようだ。
「はぁ、これだけ広いと・・・」
萌も思わず声が出る。
「うちらしか入ってないのも、取材の特権ってかぁ・・・」
優奈もご満悦のようだ。

「よし、スタートっ!」
三橋の声が関係者のイヤホンに届く。
「お待たせ致せましたぁっ! ここからは、濱崎三波もテルマエ学園の生徒さん達と一緒にバスタオル姿で入浴させて頂きまーす! えっと、マイクは使えないので肉声でリアルな所をお届けしまーすっ!」
まさに体を張ってのインタビューに臨む三波であった。
女子浴とあって岩田は入れない事もあり、カメラはすずに託されているのだが、画面には三波ばかりが映し出されている。
「こらっ! 堀井っ! 生徒を映せっ!」
岩田の怒鳴り声が聞こえる。
「Waoッ! カメラ何処ですカァッ!?」
バスタオルを外してカメラの前に出ようとするミッシェル。
それを阻止しようと、大慌ての葵。
「もうっ、何やのっ!? この学園も生徒もっ!?」
すずはカメラを構え直す。
三波が気を取り直して、温泉の効能の説明を始める。
「草津温泉の湯は少し熱めですが、疲労回復と筋肉痛などに効果があるそうです。私も日ごろの疲れが取れてきたみたいに感じます・・・。なんだか・・・。なんだか頭の中まで・・・」
その後、三波は湯あたりしてしまい、ハンと葵だけでなくミッシェルや穂波の手を借りて何とか温泉から運び出されたのであった。
その後に三橋が沙矢子や葵達に平身低頭して謝りまくっていた事は言うまでもないだろう。

一方、温泉から出たアキ達は郷土料理を堪能していた。
その後に葵と弾の提案で、男女対抗枕投げ合戦が行われたことは、この関係者以外には知られていない。
「オーッ! コレガ日本伝統のピロー・ウォーズッ!」
ミッシェルが叫び、ケリアンが応じる。
「一度で良いカラ、ヤッテみたかったデースッ!」
アキとミッシェルは枕を投げ合っているうちに、浴衣がはだけてしまい八郎と次郎を狂気させていた。
ミッシェルとケリアンが異常に盛り上がったのは想像に硬くなかったが、それ以上に葵と弾が白熱してしまい、最終局面では弾・渡が勝利し葵が悔しがり啖呵を切っていた。
「明日は負けてたまるかっ!」
この一言が、翌夜の報復戦の始まりとなったことは想像に難くない。
結局、両陣営とも精魂尽き果てて雑魚寝のまま一夜を明かすハメとなったのである。

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