二十一話 「ハッカーVSハッカー・新たなる挑戦と決意。人ならざる者・・・」|東京テルマエ学園・漫画・小説サイト

温泉復興のために、ひと肌脱ぎます!

> NOVELS > 二十一話 「ハッカーVSハッカー・新たなる挑戦と決意。人ならざる者・・・」

二十一話 「ハッカーVSハッカー・新たなる挑戦と決意。人ならざる者・・・」

この記事は28で読めます。

葵がどこかに電話を架けている。

RrrrrRrrrr
「お電話、有難う御座います。NAC総合受付です」
「そちらに司馬斎(しば いつき)ってのが居ると思いますが、電話口まで出してください」
「えっ!? 失礼ですが、そちら様は?」
「松永からやって言うてくれたら、分かります」
「あの・・・。司馬は本日、撮影が入っておりまして・・・」
「はぁ~っ!? 松永葵からやって言うたら飛んでくる筈やっ!」
「しっ・・・。少々、お待ちを・・・」
電話口の相手が葵の見幕に押されて身が竦んでいる光景が目に浮かぶようである。

※NACとは、日本アクションクラブ略称である。
アクション俳優の蔵田泰明が設立し、時代劇の忍者や刑事ドラマの格闘シーンの他にも変身ヒーロー物などで人気を博している団体である。
現在は、御面ライダーでデビューした司馬斎が最も有名である。
精悍な顔つきと鍛え上げた肉体で女性ファンも多い※

「司馬さーん、急なお電話が入ってるみたいですよーっ!」
撮影に出かけようとしていた司馬をスタッフが呼び止めた。
「誰から?」
「マツナガさんという女性かららしいですが」
「マツナガ・・・、松永っ!?  葵かっ!?」
斎の脳裏にかつての葵の面影が浮かぶ・・・
(あいつの事だ、かなり強引に・・・)
「分かった。ちょっと待っててくれ」
斎が渡されたハンディフォンを取る。
「もしもし、司馬ですが・・・」
「おう、イッキ? 急用や直ぐにテルマエ学園まで来いっ! ええなっ!」
「お・・・、おい・・・」
自分の要件だけを言うと直ぐに電話を切る葵。
「これで完璧やっ! 温水の案、うちが形にしたるっ!」

話は少し前に遡る。
【エンジェル・ウィング】の楽曲が届き、皆で派手な演出を考えていた時である。
葵が突然、豪快に笑いだしたのだ。
「わっはっはっはっはっ! 皆で天使になって羽ばたくっ! そう、ワイヤーだ!ワイヤーアクションだっ!」
皆が葵のノリについて行けず、ただ呆然と見守っていた。
「くっくっくっ、我ながら素晴らしいアイデアだっ!」
自画自賛とはこの事をいうのだろう。
「葵先生・・・。普通に戻ったみたいですね。師匠・・・」
「いや・・・。わいは何か、嫌な予感がするで・・・。犠牲者が出るで、きっと・・・」
八郎と二郎の呟きを背に、葵はワイヤーアクションだと騒ぎ続けた。
「でも、わたし達・・・。ワイヤーアクションなんて・・・」
尻込みする涼香。
「やった事も無いし・・・。ハードル高すぎない?」
汐音も珍しく、消極的になっている。
「心配するなっ! 白布、向坂っ! とっておきの奴がいる。大船にのったつもりで任せろっ!」
「大船ですかぁ・・・。泥船の間違いじゃぁ・・・」
慌てて二郎の口を押える八郎であった。

話の現在に戻そう。
葵から一方的に電話を切られた斎、大きなため息を付くと改めて電話を架ける。
「あっ、監督。すいませんが今日の撮影は延期に・・・。えぇ、そうです、どうしても外せない用事が・・・。魔王の逆鱗に触れるって言いますか・・・。すいません、宜しくお願いします」
(葵か・・・。会うのは高校の卒業以来だな・・・。母親の葬儀にも来なかったし・・・)

司馬斎は、葵と弾の小・中・高校を通じての同級生である。
だが、只の幼馴染というだけの関係で今回の無謀な呼び出しに応じた訳ではない。
斎にとって、葵がずっと憎からずの存在であった事は安易に想像出来るであろう。

(テルマエ学園って言ったか・・・。んっ! アイツ東京に居るのか?)
テルマエ学園の場所を調べた斎は愛用のナナハンに跨る。
(相変わらず、自分勝手な所は変わってないようだが・・・)
キーを回し、エンジンを掛けた斎はテルマエ学園へと向かった。

テルマエ学園の正門前、葵が腕組みをしながらウロウロと歩き回っている。
(遅いっ! 何をしてるんだ、アイツはっ!)
しばらくして、ズド・ズドドドドド・・・・ 低い音が聞こえる。
(やっと来たか・・・)
駐車場にナナハンが止まり、斎がヘルメットを取る。
浅く日焼けした懐かしい顔が葵の目に映った。
「しばらくだな・・・」
「で、用件は?」
「こっちで話す。取り合えず教室に行くぞ」
葵は半ば強引に斎を教室へと連れて行った。

「えっ!? うっそぉっ!」
「まさか・・・。司馬斎っ?  本物っ!?」
七瀬と穂波が驚きの声を上げる。
突然の人気アクションスターの登場に教室が騒然とする。
「ちょっと、待ってっ! 何で司馬斎がここに居るのっ?」
「どうして? どうして?」
穂波と汐音は我を失っているようだ。
「あっ、サインいいですか?」
優奈は何処からか色紙を取り出す。
「・・・、誰?」
「えっ、アキちゃん知らないの?」
「大人気のアクションスターだよっ!」
萌と涼香から教えられるアキ。
「もしかしてぇ・・・。葵先生の彼氏とかぁ?」
汐音が葵と斎、交互に視線を送る。
「違うっ! 只の腐れ縁だっ!」
(おいおい・・・)
葵と斎・・・長い付き合いだからこそ、言えるセリフなのかも知れない。

パンバンパンッ!
弾をまねて葵が柏手を打ち、教室は落ち着きを取り戻す。
「皆、聞いてくれ! 【エンジェル・ウィング】のワイヤーアクションはこのイッキ・・・、いや・・・、司馬斎が指導する事になった」
「え・・・?」
「プロのNAC監修だ。これ以上の助っ人はないぞっ!」
「お・・・、おい。俺は何も聞いちゃ・・・・」
「すごーいっ!」
「これなら・・・!」
「ありがとうございまーすっ!」
「宜しくお願いしまーす!」
葵の自己チューは今に始まった事ではない、それは斎も良く知っている。
更に・・・
キャイキャイと喜び小躍りするアキ達を見て、斎も苦笑する。
「ふう・・・」
斎が振り返ると・・・
「頼む・・・。イッキ・・・」
葵が両手を合わせて拝んでいる。
(葵が頼むとは・・・。余程の事か・・・)
「分かった。でも、撮影の調整もあるし、明日からの稽古で良いか?」
斎はアメリカ人のように両腕を広げ挙げ、ヤレヤレと言う感じで破顔一笑している。
「やったーっ!」
教室内は再び喜びに満ち、騒然となったーー
「ありがとう。イッキっ!」
葵も笑顔を返す。
(イッキと呼ばれるのも7年振りか・・・。綺麗になったな・・・、葵・・・)
「じゃ、明日な・・・」
そう言って、NACに戻る斎を葵が見送る。
(7年か・・・。イッキ・・・、変わらんな。相変わらず、いい奴だ・・・)
実は斎が葵に仄かな恋心を抱いていた事など、葵本人は全く気が付いていない。

(さて・・・)
ナナハンに跨り、ヘルメットを手にした斎の前を一組の男女が通りかかる。
「ん・・・、もしかして斎か?」
「え・・・っ、弾?」
こちらも雪乃の葬儀以来の再会である。
「では、先に行っております」
気を利かせたゆかりが斎に軽く会釈をしてその場を離れる。
(確か・・・、司馬・・・斎・・・? なぜ。ここに・・・? 弾と知り合いって事は、恐らく・・・。葵が呼んだってところね・・・)
ゆかりが離れたのを見て斎は弾に話しかける。
「凄い美人だな・・・。彼女か?」
ニヤつきながら尋ねる斎。
「いや・・・。いっそ無関係でいたい相手だ・・・」
孤独な笑みを浮かべる弾。
「ところで、斎? 何でお前がここに?」
「いや・・・、実は葵に呼び出されてな・・・」
斎はこれまでの事を弾に語る。
「そうか・・・。ワイヤーアクションを・・・」
「葵に頼まれたんじゃ、断れないしな」
ニッと笑う斎。
「済まなかったな・・・。忙しい所、悪いが葵の力になってやってくれ」
深々と頭を下げる弾を見て、かつての弾との違いと感じる斎。
「でも・・・、弾。お前も東京にいるなんて・・・。松永流は?」
「・・・。訳あって・・・、掛け持ちだ・・・」
「弾・・・」
「・・・」
「無理するなよ。お前、昔っから抱え込んでしまうからな。いつでも、愚痴くらい聞いてやるぜっ!」
斎の優しい言葉の響きが、弾に学生時代の楽しかった日々を思い出させる。
「あぁ・・・。ありがとう・・・」
力なく笑った弾は、ナナハンで走り去る斎の姿が見えなくなるまでいつまでも見送り続けていた。

「次は・・・、ハーネスとワイヤーか・・・。さて、どうしたものか・・・」
考え込む仕草を見せる葵に渡が歩み寄る。
「葵先生! ハーネスとワイヤーは、俺が準備します」
「早瀬っ? お前が?」
「八郎にばっか、いいカッコさせられませんよ。それに・・・」
「それに・・・?」
「俺だって、【ムーラン・ルージュ】(・・・アキ)の力になりたいんです!」
「ほう・・・。分かった、早瀬っ! 宜しく頼むぞっ!」
「はいっ!」
(良い奴らばかりが揃っている・・・)
葵も満足げな笑みを浮かべる。
「デザイナー大塩っ!」
「はいなっ!」
待ってましたとばかりに衣装案を練っていた八郎と二郎が顔を上げる。
「今回の曲が、【エンジェル・ウィング】、皆をワイヤーで吊り上げる演出になる。無論、天使のイメージで衣装を考えていると思うが・・・」
葵の言葉に重みが増す。
「ハーネスの上から衣装を着ける事になるだろう・・・。無論、危険も伴う、そこで安全面にも配慮したものを頼みたい」
(葵先生、バリバリに顧問の顔になって来てるで・・・)
(少しでも手を抜いたら、アキちゃん達が・・・)
葵の真剣な表情に八郎と二郎も決意を込めて首肯する。
「分かってますわ! 二郎、今から大阪に行くでっ!」
「えっ、大阪ですか?」
「そうや! 今回の衣装は緻密な計算が必要なんや、大阪のCPU専門校・東沢学園の先生達にも協力して貰うでぇっ!」
「はいっ、師匠っ!」
「ちょっと待て! 今、温水達のデータを・・・」
チッチッチッっと八郎が人差し指を立てて振る。
「葵先生、心配ご無用やで。アキちゃん達のデータは全てこの頭の中にインプットされてまっ!」
「・・・、あまり褒めたくはないが・・・。まぁ、良いだろう。頼んだぞっ!」

こうして、アイドル甲子園4回戦へ向けての準備が着々と整っていったのだーー

「いやぁ、参った参ったぁ。まさか、セルゲイが負けるなんてね~」
二月会の到着前に現場を脱出したヤミが孫の所へと戻っていた。
「クソッ! 黄ニ続イテ、セルゲイ、マデっ!」
「こうなって来ると、孫の立場も危ういよね~。あの方が何て言うかなぁ」
「ヤミ・・・、オ前ッ!」
「大丈夫だよぉ、まだ何も言ってないから・・・。まだ・・・ねっ!」
「テルマエ学園、ハッキングハ?」
「いつでも、入れるよ。あっ、そうだっ、ちょっと面白いの見つけたんだよ」
そう言って、ヤミはパソコンのキーを叩く。
「ほら・・・」
そこには、テルマエ学園に渋温泉から入学したアキと七瀬のデータが表示されている。
「二人とも、旅館の子だしぃ・・・。それに・・・」
表示されている画面が切り替わった。
「ハヤセ・・・、ワタル?」
「そう、孫の探している早瀬駆の弟なんだってさ・・・」
一瞬だが、ヤミの顔に笑みが浮かぶ。
(この3人・・・、あのビルで見たよねぇ。面白くなりそうっ!)

「テルマエ学園、乗ッ取レッ!」
「TOBは?」
「モウスグ準備完了ダッ! ソレト、早瀬駆ノ居場所モダッ!」
「そう言うと思ってたよ」
ヤミがキーボードを叩く。
モニターに早瀬リージェンシーホテルの映像が現れる。
「ここの最上階だってさ」
「情報ノ素ハ?」
「警視庁のデータ。でも、二月会ってのがガードしてるみたいだよ」
「二月会カ・・・、厄介ダナ・・・。先にTOBダ」
「了解っ! あと、ドルゴちゃんがいつでもやれるってさ」
「ソウカ・・・。シブ温泉・駆・テルマエ学園、全テ手ニ入レテヤル、アイドル甲子園モナ・・・」
孫がニヤりと笑った。

テルマエ学園・IT管理室に警報が鳴り響いた。
「外部からのハッキング、多数っ!?」
「どういう事だ? 至急、対策ソフトを起動させろっ!」
「駄目です、間に合いませんっ!」
管理室の壁面に配置されている百近くのモニターが次々と赤色で『EMERGENCY』の表示に変わって行く。
「どうしたの!?」
異常の報を受けたゆかりが弾とともにIT管理室に駆けつけた。
「分かりません、ただ数十人レベルでのハッキングを仕掛けて来ているとしか・・・」
「そんな・・・。馬鹿な・・・」
ゆかりが絶句する。
「学園長が不在の時に、こんな事が起きるなんて・・・。まさか、狙って・・・?」
弾の頭に一抹の不安が過った。
「とりあえず、防衛策をっ!」
「駄目ですっ、侵入速度が速すぎますっ!」
「テルマエ学園のIT管理室は国内でも有数の技術力を誇っているのに・・・」
ゆかりが唇を噛む。

「いいよぉ、いいよっ、もっと抵抗してよっ! ほらっ、またクリア~っ!」
テルマエ学園にハッキングを仕掛けていたのはヤミである、
両手両足を使って2台のパソコンを同時に操作しているとは言え、数十人を擁するテルマエ学園のIT管理室へとやすやすと侵入しているのはやはり常軌を逸している。
「あはははっ!あははははっ!」
ヤミの甲高い笑い声とキーボードを叩く音だけが聞こえている。
「あれっ!?」
ヤミの手が止まる。
「誰かが・・・、邪魔している・・・?」

「ハッカーの侵入速度が落ちていますっ!」
「ウイルス感染したサーバーも一部が復帰っ!」
(どうしたの? 何が起こっているの?)
「学園内から敵のハッキングに対抗しているものがありますっ!」
「ここじゃないの?」
「学園内には間違いありませんが・・・」
ハッと顔を見合わせる弾とゆかり。
「こんな事が出来るのは・・・」
「一人しか・・・」
弾がいきなり走り出した。
「松永さんっ!?」
すれ違った職員を突き飛ばすようにして弾は走る。
「橘さんっ、我々はどうすればっ?」
「弾・・・。いえ、松永が戻るまで持ち堪えなさいっ! 何としてもっ!」
(恐らく・・・)
ゆかりはこの危機を乗り切る事だけを考えようとしていた。

弾が向かったのは、学生寮である。
そして、階段を駆け上がりある部屋の前に立つと荒い息のままドアを力強くノックする。
「開けろっ!カトリーナっ! 分かってるんだっ!」
カチャリ
部屋の内側からロックを外す音が聞こえる。
「弾・・・、センセイ・・・」
ドアの開けたカトリーナの後ろでパソコンのモニターが光っている。
「防衛していてくれたんだな?」
「・・・」
押し黙ったカトリーナが口を開く。

カトリーナは【ムーラン・ルージュ】の対戦相手や現在勝ち残っているチームの情報収取をしていたのだが、その途中で学園のサーバーがハッキングされているという僅かな痕跡に気付いたのだった。
かつてここでハッキングされていた学園のサーバーに気付き逆ハックを仕掛けたのだがその時は追いきれずに終わっていたのだ。
そして今新たにハッキングされている事を知り、自らの意志で応戦していたのだった。

「やはり、カトリーナだったのか・・・」
カトリーナが黙って下を向く。
これで自分が学園のサーバーに直接アクセスしていた事が解かれば、相応の処分を受けることは考えるまでも無い。
(ゴメンネ・・・、皆・・・)
最早、学園に残る事は出来ないだろうし、犯罪者として収監される事も覚悟していたカトリーナ。
だが、アキ達のいるこのテルマエ学園を守りたいという一念のみだったのである。

「カトリーナっ、力を貸してくれっ!」
「センセイ・・・?」
「この危機を乗り越えるには、お前の力に頼るしかない。頼む・・・」
弾がカトリーナに深く頭を下げる。
その間にもカトリーナのパソコンの画面に次々と乱数が表示されては、消えて行く。
(今ハ・・・!)
カトリーナが意を決した。
「センセイ・・・。コレヲ」
カトリーナが小型のイヤホンを渡す。
「ワタシ、指示ダシマス。ソレヲIT室デ実行サセテ下サイ」
「分かった・・・!」
弾がイヤホンを付けてIT管理室へと走り、カトリーナはパソコンの前に座り直し、マイクをセットする。
「弾センセイ、到着ネッ!」
弾に渡したイヤホンの位置とIT管理室の位置情報が一致した。
「サァ、反撃開始ヨ。ブラフマーの復活・・・、シッカリ、見セテアゲルッ!」

弾が息を切らしてIT管理室へと駆け戻る。
そして・・・
「計算速度を16進単位へ変更っ! 予備のサーバーを全て起動させろっ!」
ITに関して素人の筈の弾の指示に皆が戸惑う。
「弾の言う通りにっ! これは、学園長命令ですっ!」
ゆかりの檄が飛ぶ。

「12番・38番サーバーダウンッ!」
「47番、ウイルス感染を感知っ!MYDOOMですっ!」
「6番も感染っ!PE_EXPIROっ!」
「47番をダウンっ! 6番は物理的に遮断しろっ!」
「予備サーバー、起動完了しましたっ!」
「8~14番までのサーバーデータをすべて移行っ!」

先ほどまで止まる気配を感じさせなかった赤色の『EMERGENCY』表示が次々と消えて行く。

「誰だよ~、せっかくうまく行ってたのにぃ!」
ヤミの顔が一瞬険しくなる。
「こんな事が出来るとしたら・・・! ブラフマーちゃんかな? お帰りぃ、ブラフマーちゃん!」
そして、ニヤリと笑った。
「さーて、ここからが本気だよっ!」
ヤミの両手両足の動きが今までに増して早くなった。

「クッ、早イッ!コレ程トハッ!」
カトリーナも自分のパソコンで対応しながら弾に指示を出し続ける。
「ウイルス感知、27番は、ワクチンをワタシが・・・。全体の防衛領域ヲ広ゲテッ!」

「27番はそのまま放置っ、全体の防衛領域を拡大っ!」
「サテライトサーバーはいくら落ちても構わんっ、メインサーバーを死守しろっ!」

攻防は数時間続いたーー
そして・・・

「メインサーバーにハッキングを確認っ! 駄目です、乗っ取られますっ!」
IT管理室のモニターの過半数が赤く染まる。

「やったねっ、ボクの勝ちぃ!」
ヤミが嬉しそうに笑う。

「罠に落チタノハ、貴方ネッ!」
カトリーナがENTERキーを押す。

「えっ・・・。まさかぁ・・・」

「な・・・。何が起きたの・・・」

それまで激しく攻防を繰り返していたモニターの緑と赤の点滅が止まった。
そして・・・

一瞬の点滅があったと思った瞬間、一気に緑の通常表示へと変わったのだ。
「・・・。オ、オールグリーン・・・」
「おぉぉぉぉっ!」
IT管理室に歓声が上がる。
「やった・・・、やったぁぁぁっ!」
「防衛成功だ、凄いぞっ!」
「まるで、神業だっ!」
皆が弾の下へと集まって来る。
(俺は・・・、カトリーナの言葉を代弁をしただけだが・・・)
口を開こうとする弾の肩をポンっと叩き、ゆかりが声を掛ける。
「大したものね・・・」
「いや、俺は・・・」
「大衆は常に英雄を欲するものよ・・・。起きた事実は最大限に利用しなさい・・・」
「・・・」
「貴方が何処に行って戻って来たのか、私は知らない。だから、学園長に報告するのは貴方がこの騒ぎを解決したって事だけ・・・」
(カトリーナの事も不問に付すと言う事か・・・)
「とにかく、お疲れさまっ!」
ゆかりが右手を差し出し、致し方なく弾はその手を握る。
その姿を見て、更に歓声が高まった。

騒ぎが落ち着くのを待って弾がカトリーナを呼び出す。
「助かったよ。ありがとう」
「デモ・・・。ワタシ、モウ・・・」
「後は【ムーラン・ルージュ】を頼む・・・」
「エッ?」
自分がハッカーであった事、学園長のパソコンに直接メッセージを書き込んだ事など、カトリーナは身を引く覚悟を決めていたのだ。
「葵は・・・。あないやからなぁ、カトリーナみたいな助けが必要なんや」
弾が微笑みながら話す。
「・・・、センセイ」
久しぶりに聞く弾の京都弁がカトリーナの涙を誘った。
「頼んだで・・・」
そう言って立ち上がろうとする弾にカトリーナがUSBメモリーを差し出した。
「これは・・・」
「一瞬ダッタケド、相手ノPCヲコントロールシタ時ニ・・・」
「抜き取ったデータか?」
「何カ役ニ立ツナラ・・・」
「預かっとくわ・・・」

弾が退出するのを待ってカトリーナがPCに座り直す。
(コレヲ扱エルノハ・・・)
カトリーナの指が軽やかに動く。
(警視庁・組対4課・・・。オ願イ・・・)
カトリーナは果たしてなぜ警視庁のサーバーにハッキングしたのか。
それはいずれ分かる事になる・・・

一方、ヤミは・・・
「まさか・・・。あんな手で来るとはね~」
呆然としている様子である。
カトリーナが取った策は、テルマエ学園のメインサーバーを模した自分のパソコンにヤミの攻撃を誘導し隙を突いて逆ハッキングを仕掛けたのである。
ヤミだけでなく、IT管理室の面々まで騙されていたのだからカトリーナならではの策だったと言えるだろう。
「しかも・・・。一瞬とはいっても、こっちのデータまで抜き取られるとは・・・」
いつものヤミらしからぬ落ち込み方である。
「あの方に知られたら・・・。ボクでもヤバイヤバイ・・・」

カトリーナから渡されたUSBを自室のPCで開く弾。
「こっ、これはっ!?」
弾の目が画面に釘付けになる。
そこには・・・

❝早瀬駆の潜伏場所 早瀬リージェンシーホテル 最上階 インペリアルルーム 護衛 二月会❞

❝弟 早瀬渡はテルマエ学園に在学❞

❝テルマエ学園には、渋温泉の温水・星野の両旅館からも入学 温水アキ・星野七瀬❞

❝アイドル甲子園のユニットとして要注意・・・❞

画像はここで切れた・・・・

弾は自分が感じていたレベルではない、もっと大きな流れが迫ってきているのを感じずにはいられなかった。

「そうか・・・。そんな事があったか・・・」
学園のサーバーへのハッキング事件についてゆかりの報告を聞いたミネルヴァが呟く。
「まぁ、終わったのであればそれで良かろう。しかし・・・」
「しかし・・・?」
「弾も変わった才能を持っておったとわ・・・、な?」
ゆかりを見て意味ありげな笑みを浮かべるミネルヴァだった。

あの事件の後、ハンは学園の寮に戻らず【ベティのケチャップ】に居た。
「矢板・・・サン・・・」
初めて会ったのは、十数年前になる。
国際武術交流の為、タイを訪れた矢板は一人の少年と出会った。
場所はムエタイの道場・・・

「女の子かと思ったが・・・。男の子なのか?」
ハンは昔から女の子と見間違われる程の美形であった。
だが、本人にとってはそれが嫌でたまらなかった。
女の子みたいに見えても、強くなったらそれで見返してやれるという気持ちでムエタイ道場の門を叩いたのだ。
しかし、ハンの生家はとても裕福と言える状態ではなく、まともな練習もさせて貰えない日々が続いていた。
(だが・・・、この子には才能がある)
矢板はハンの才能を見抜いていていた
そして、ハンに一つの秘密を打ち明けたのである。
「どうだい、綺麗だろう?」
矢板がハンに打ち明けた秘密、それは女装する事と秘密捜査員である事だった。
幼き日のハンはそれを見て一つの決意をする。
「コノ人と同じようになる。ソシテ、悪い奴をやっつけるンダ」
そして、矢板もムエタイ道場に送金を続けた。
無論、ハンの練習費用である。
互いに再開する日を目指して、それぞれの道を進んで来たのだ。

そして、やっとの思いで再会したのだが・・・

キィッ
【ベティのケチャップ】のドアが開いた。
「ハン・・・」
「飛鳥井サン・・・」
「お前の意志で決めろ。矢板もそれを望む筈だ・・・」
店内をぐるっと見回すハン。
そして、おもむろに口を開いた。
「矢板サンノ・・・。跡を・・・、継ぎマス」
「分かった・・・」
飛鳥井が【ベティのケチャップ】を後にした。
(矢板・・・。お前の意志を継ぐ子がいたぞ・・・)
飛鳥井の目に浮かんだ涙は果たして何を意味していたのだろうか。

都内某所・・・
マンゴローブこと、矢板さくらの葬儀が行われていた。
【ベティのケチャップ】のスタッフも、アキ達も参列はしていない。
していないと言うのではなく、知らされていないという方が正しいのだろうか・・・
殉職したとは言え、あくまでも極秘捜査である為、警察関係者の参列も無い。
どこまでも密やかであった・・・

火葬の時間帯になり、少し雨が降り出した。
(矢板の涙か・・・)
空を見上げる飛鳥井の隣にハンが立っている。
そこに・・・
「飛鳥井課長っ! なぜっ、ここにっ!」
飛鳥井が振り返ると、そこには喪服に身を包んだ隼人の姿があった。
「本陣か・・・。君と同じだ、個人としてここに居る」
「では、なぜ・・・。ハンが居るのですか?」
「世話になった人を見送りたいという気持ちは分かるだろう?」
「そうじゃないっ! なぜ、貴方と一緒に居るのかと聞いてるんですっ!」
いつも冷静な隼人が珍しく感情を露わにしていた。

「ハン・・・。少し、外してくれ・・・」
飛鳥井の言葉に黙って頷き、その場を離れるハン。

「矢板は優秀な捜査官だった・・・」
ハンの姿が見えなくなるのを待って飛鳥井が話し出す。
「おっしゃる意味がわかりません」
「優秀な人員は一人でも多く・・・」
「だからってっ!」
隼人が怒りの籠った声で飛鳥井の言葉を遮った。
「また、あんな悲劇を繰り返したいんですかっ?」
怒りの全てを飛鳥井への視線に込めた隼人が声を荒げる。
「飛鳥井課長・・・。貴方は・・・、鬼だっ!」
吐き捨てるように言葉を浴びせる隼人。
飛鳥井はゆっくりと視線を上げる。
「私はこの国と国民を守る為なら・・・。鬼でも悪魔でもなってみせるっ!」
飛鳥井の激しい意志を感じた隼人がたじろいだ。
そして・・・
「本陣っ! お前もその覚悟が無いのなら・・・。警察官など辞めてしまえっ!」
「くっっっっ!」
互いの言いたい事、気持ちは分かっている。
だが、マンゴローブの死と言う事実がそれを分かち合えない溝となっていた。

「矢板・・・サン・・・」
ハンが人知れず呟いた。
「大切な人が亡くなったの?」

不意に後ろから声を掛けられハンが驚く。
(コンナニ近く、気が付かなカッタ・・・)
格闘技を極めた者にたやすく接近する事は至難の技である。
ハンが振り返って相手を見る。
肩を越す長い黒髪・一見すれば喪服と見紛う黒のパンタロンスーツの女性。曇り空なのに外さないサングラス・・・。
「ダレ?」
ハンの本能が常人ではない事を伝えていた。
「ずっと、貴女を見ていてくれたのね・・・」
(コノ人・・・?)
「とても強い力で貴女を守っているわ・・・。これからも、ずっと・・・」
「・・・」
「あなた・・・、お名前は?」
「ハン・・・」
「ハン・・・?」
ハンは何か決意したように顔を上げる。
「ハン・矢板」
「そう・・・」
(矢板サン・・・)

ハンがマンゴローブを思い出した一瞬、その女性は遠く離れた所に移動していた。

「こんなに強い気を感じるなんて・・・。余程ね・・・」

その女性が飛鳥井と隼人とすれ違う。
「・・・っ! まさかっ!?」
慌てて飛鳥井が振り返る。
「誰・・・、ですか?」
「まさか・・・。不動院・・・、晶・・・」
「フドウイン・・・?」
「我々でも直接会う事など無い相手だ・・・」
「・・・」
「人ならざる者が動いたという事か・・・」
その時、初めて飛鳥井の顔に恐れの色が浮かんでいた。

テルマエ学園に八郎のデザインした衣装が届けられている。
――ハーネスとワイヤーを装着するという葵からの提案もあり、今回は機能性を重視した動きやすいデザインとなっており、白をモチーフに上衣は天使の羽をあしらい、下はホットパンツである。
「今回は苦労したでぇ」
構造力学や重力力学、更には衣装の素材まで緻密な計算を行ったのは、東沢学園のメンバーである。
「本当にお世話になりましたよねぇ~」
「せやからこそ、これだけのものが出来たんや」
八郎と二郎は感慨深げである。
また、渡の準備したハーネスとワイヤーもほぼ時を同じくして到着していた。

アキ達はTシャツと短パン姿で、ハーネスとワイヤーの装着手順を確認している。
ワイヤーアクションの練習は、広い場所が必要という事で学園の大講堂がその場所に当てられた。

(遅い・・・。何をしてるんだ、あいつはっ!)
葵が今か今かと時計をチラチラと見ている。
斎の到着を待っているのだ。
ズド・ズドドドドド・・・・
低く響くエンジン音が聞こえ、斎の乗ったナナハンが見えてくる。
その後ろには、NACのロゴの入った小型トラックとマイクロバスが続く。
「遅いぞ、イッキっ!」
「これでも、約束の時間よりは早いんじゃないか?」
「うちが呼んだ時は、30分前に来いって言ってただろうっ!」
「おいおい、いつの話だよ。(やっぱり、変わってないな・・・。葵)」
「さっさと準備をっ!」
「りょーかいっ!」
斎の顔に笑みが浮かぶ。
「よーし、皆っ! 荷物を卸してくれっ、マットは全部ここに運び込んで並べて・・・」
葵がざっと見回すと20人くらいと見てとれ、女性も数人いる。
「イッキ? この人たちは・・・?」
「あぁ、うちの訓練生達だ。出来の良い奴を選んで来た。ワイヤーを支えるのは男だが、女の子相手だ、女性も居た方が何かとやりやすいだろ?」
「そうか・・・。あれは?」
葵の目に黒いレザー貼の大きな物体が映る。
「着地用の練習マットさ。ちゃんと人数分用意してきたから心配するな」
斎の心遣いを嬉しく思う葵。
「すまないな。イッキっ! お前が頼りだ。後は頼むぞっ!」
「おうっ! 任せとけっ!」
斎が爽やかに笑う。

そんな光景を学園長室から見下ろすミネルヴァの姿があった。
「ほう・・・。なかなか大掛かりなようだな・・・」
「松永葵の発案・手配とか・・・」
「ふむ、若い者はそれくらいで丁度よい」
「・・・」
「弾はどうしておる?」
「早瀬との関係に集中しているようですが・・・」
「そろそろ・・・」
「はい?」
「先日のような事も無いとは限らん。学園の事も・・・」
「・・・承知しました」
(学園長・・・。本音は何なの・・・)
逡巡するゆかり、そして別棟から大講堂前を見下ろす弾がいた。
(葵・・・、頑張ってるな。斎・・・。頼むぞ・・・)

アクションスター司馬斎の指導を心待ちにしていたアキ達にいよいよの時が訪れた。
アキを先頭に萌と圭の表情は硬く引き締まっている。
涼香も今日はギターを持参していない。
反対に期待している表情を見せているのは、汐音と優奈、穂波と七瀬である。
「ワイヤーアクションの基本は、体幹をブレさせない事です。軽く見本をやってみますね」
ハーネスとワイヤーを装着した斎の体がふわっと宙に舞い、軽やかに着地する。
ワッと歓声が上がった。
「じゃあ、皆。このマットの上に上がって! 今から一人ずつ、ワイヤーを引いて持ち上げるよっ! よし、上げてっ!」
斎の指示で、訓練生達がアキ達一人につき二人掛かりでワイヤーを引き、吊り上げていく。
「きゃぁっ!」
思わず悲鳴を上げ、ジタバタしているのはアキだ。
「えっ・・・! こんなに高いの・・・」
七瀬は思わず言葉を飲み込む。
「怖い怖い怖いぃぃぃっ!」
涼香は真っ青になって目を瞑っている。
かとや思うと・・・
「へえ~、こんな感じなんだね」
「本当に空を飛んでるみたい」
「これって、癖になるかも・・・」
汐音・圭・穂波の感想である。
萌はスケボーのジャンプで慣れているのか、特に動じる気配は無い。
ただ、優奈は・・・
「・・・」
何も言えないようだった。
「一人につき二人でワイヤーを引いてるから心配しないで」
「天使のイメージって聞いてるから、手足はあまり動かさない方がいいかな」
斎が声を掛けていく。
「じゃ、1人ずつゆっくりと下ろしていくよ」
斎が訓練生達に合図を送る。
「下りる時は、足をゆっくりと前後にっ!」
斎の指示が入るが・・・
「うわっ!」
「きゃあっ!」
かなりゆっくりと下ろして貰っているのだが、慣れていないアキ達はタイミングが合わずに足を崩してしまったり、尻もちをついたりしている。
「はっ!」
「よっとっ!」
そんな中でも、汐音と萌だけは両手を広げてバランスを取りながら綺麗な着地をみせる。
「よい感じだ。初めてにしてはなかなかだぞっ! じゃ、もう一回いくよっ!」

こうして何度か練習を繰り返していくうちにアキ達は着地のタイミングが掴めて来ていた。
「最後の仕上げは、マット無しでやつてみようっ!」
8枚のマットが片付けられ、次々と吊り上げられていくアキ達。
空中で静止し、下を見ると、何も置かれていないのが分かる。
「じゃあ、ゆっくり着地してっ!」
斎の合図で一人ずつ降下を始める。そして・・・
ストン!
次々と着地に成功したアキ達を見て、斎が手を大きく頭の上で広げてOKサインを出す。
「ありがとうございました」
アキ達は一列に並んで斎に礼を言う。
(これだけ上達が早いとは・・・。NACに欲しいくらいだな)
斎も満足げに笑顔を返す。

「イッキ、助かった。ありがとう」
葵にしては素直な礼の言い方である。
「基本さえ覚えたら、後は本番で落ち着ければうまく行く。明日からは俺は来れないが。訓練生を交代で来させる。それと、アイドル甲子園のステージはNACが全面サポートするから。頑張れよ、葵っ!」
「あぁっ!」

そうして、翌日からもNACの訓練生達が入れ替わり立ち代わりでアキ達の指導にあたり、天使の衣装を着てハーネスを繋ぐ練習も一週間ほどで完了し、自信に満ちたアキ達の姿が見られるようになったのである。

【スケボー万歳】は日を追うごとに大好評となり、3回目の収録日を迎えていた。

「いよいよこの番組も3回目となります! 全国の【スケボー万歳】ファンの皆さん待望の時間がやって参りました!」
ハイテンションな山下信二の声が響く。
「さて、今日はどんな技を教えて貰えるんでっか? 萌ちゃん?」
「はいっ! 今日は『ターン』と言うのをやってみたいと思います!」
信二と並んだ萌の笑顔がアップで映される。

※ターンとは、体の重心を使って左右に孤を描くよう曲がるテクニックである※

「おおっと、ターンでっか? これは難しいかも知れへんなぁ、まず萌ちゃんのお手本から見て見ましょうっ!」
スルッ! カタッ! カタッ!
萌がボードのテール(後方)に体重を乗せて足を上げて下ろす動作を繰り返し、左右に曲がりながら進んでいく。
「膝を伸ばしていると転びやすくなるので、軽く曲げておくといいですよ」
「いつもながら、萌ちゃんのワンポイントアドバイスは分かり易いわぁ」
「じゃあ、山上さんもやってみてください!」
「ええっ、こうして。膝を軽く曲げて・・・」
信二は萌のアドバイスを復唱しながら、ゆっくりと後を追う。
「そうそう、そんな感じ! 山上さん、上手ですよ~♪」
萌はスケボーに乗りながら拍手している。
そして、萌と信二は矢々木公園のトラックを一周する。

「さて、今回の放送を見てくれはった方にだけ、特別なお知らせがありますんや! ねっ! 萌ちゃんっ?」
「はいっ!」
「これはまだ秘密なんでっけど、次回は時間を延長したスペシャルバージョン! しかも、公開録画・・・」
「山上さん、山上さん・・・」
萌がチョイチョイと信二を突く・・・
「分かってまんがな。更に・・・っ! 何とっ、萌ちゃんのハーフパイプ演技も生で見られるんでっせっ!」
興奮する信二の横で萌は微笑み続ける。
「これを見逃したらあきまへんでぇ~。」
カメラがバックして、萌と信二の後ろにハーフパイプのセットを映し出す。
「この番組は、ニッコーマン醤油の提供でお送りしましたぁ。それでは、次回もぉ~」
「レッツ・チャレンジっ!」
いつもの決め台詞と決めポーズで収録が終わった。

「萌ちゃん?」
信二が萌に話しかける。
「はい? 何ですか?」
「次回の収録やけど、友達とか呼んであげてもええねんで」
「わぁ、ホントですかぁ。皆、喜ぶかなぁ」
「萌ちゃんの友達は、いつでも特別ご招待するよって・・・」
「ありがとうございます!」

一応、信二が言った事になるのだが、これを画策したのは・・・
(【ムーラン・ルージュ】のメンバーが応援、これは盛り上がるぞ・・・。そして、その勢いはアイドル甲子園にも・・・)
勿論、三橋の考えであった。

DoDoTVの三橋が久しぶりにテルマエ学園を訪れたーー
【スケボー・万歳!!】公開録画の打合せの為である。

アキ達は天使の衣装に着替え、歌や立ち位置などを目下練習中である。
一目それを見た三橋の瞳が輝く。
「おぉっ!今度は天使っ! 大塩君のデザインは回を追う毎にグレードアップしていくなぁ・・・。まさに、天才だっ!」
相変わらずと言って良い程の絶賛である。
「デザイナー大塩の手にかかったら・・・。まぁ、こんなもんですわっ!」
八郎もそれに応え、何処までも鼻が伸びていく。
「まるで、ビノキオだな・・・」
あきれ顔の葵が呟く。
「ところで、三橋さん。今日は何の件で?」
「あっ、葵先生。今日は平泉さんとの打ち合わせと・・・。そう言えば、次の対戦相手も決まりましたね、福岡代表の・・・、確か【めんたい・シスターズ】だったと思いますが・・・。まぁ、【ムーラン・ルージュ】なら楽勝でしょう!」
いつもこのように根拠のない自信を持ち、いざ苦戦すると見苦しい程に狼狽えるのだが・・・。
今の三橋の頭の中には不都合な情報は全て消去されている。
なぜかと言うと、自分が企画した番組二つの視聴率アップで他の事を考える余地も無くなっているのだ。

「あっ、平泉さんっ! 次の【スケボー・万歳!!】の公開録画はスペシャルでハーフパイプの演技もーー」
目ざとく萌を見つけると即座に駆け寄り、笑みをまき散らす三橋であった。

「【めんたい・シスターズ】・・・」
圭の表情が曇る。
「どうした?  大洗・・・」
「先生・・・。今度の相手・・・、今までの比じゃないですよ・・・」
「ソウミタイ・・・」
圭の言葉に続き、カトリーナが同調する。
「どういう事だ?」
「コレヲ見テ・・・」
カトリーナ動画をモニターに転送する。
「何? これ? 格闘技?」
第一声を上げたのは汐音だった。
「うち・・・、初めてみるわぁ・・・」
優奈の言葉に皆が頷く。
「あち・・・、知ってる。これ、【カボエィラ】だよ。あの足さばき・・・、プロ級だな・・・」
穂波の目の色が変わっていた。
「でも、腰の帯? 紐みたいなの白だよ。白って、初心者って事じゃ・・・」
涼香の疑問に答える穂波。
「【カボエィラ】は白が最高位なんだ。師範クラスが揃ってる・・・」
「しかも・・・」
圭の言葉に皆が振り返る。
「【めんたい・シスターズ】は九州地区で全勝・・・。どんな大会でも負けた事が無い・・・」
皆が目を見合わせ、重い空気が流れた。
「つまり・・・」
葵が話に加わった。
「過去にない強敵って事か・・・」
(え・・・! もしかして・・・。俺、場違いになってる・・・?)
やっと気が付いた三橋であった。

コメントを書く

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。