第十一話 「転生の秘密。そして・・・、覚醒!?」|東京テルマエ学園・漫画・小説サイト

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第十一話 「転生の秘密。そして・・・、覚醒!?」

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京都へと向かう新幹線、そこに弾と葵の姿があった。
目的地は・・・、無論 松永流本家である。
十津川温泉から戻りしばらくは平穏な生活かと思ったのだが、なぜか急にゆかりがアキ達を連れて山形へと向かう事となり、弾と葵は休暇が与えられたのだ。
「久しぶりに姉弟の二人でゆっくりしてらっしゃい」
意味ありげなゆかりの台詞ではあるが、如何せんその裏にはミネルヴァの意図が関わっていることは疑う余地も無い。

「なあ・・・、弾・・・」
会話の無い時間がしばらく続いた後、葵が遠慮がちに話かける。
「何や・・・。葵・・・」
「その・・・、ヨシは元気か・・・」

ヨシとは、齢八十歳になる松永家の付添婦である。
浦上ヨシと言い、弾と葵にとっては祖母のような存在でもあった。
出稼ぎで田舎から出てきたところを初代松永流家元の父に拾われ、先代・松永雪乃にとっても母であり姉のような存在であったのである。
無論、雪乃が弾と葵を出産した後は弾と葵の乳母的役割も務めてきた事もあり弾と葵を溺愛しており、二人も慕っていた事はいうまでも無い。

「そないなこと、自分の目で見たらどうや・・・。元気や・・・」
「そうやな・・・。すまん・・・」
葵はそれっきり押し黙り、目を閉じた。
まるで、遠い過去を思い出そうとするかのように・・・。

京都駅に降り立った二人は無言のまま、タクシーに乗り込む。
しばらくすると、松永流の看板が葵の目に入って来た。
タクシーを降りて歩き出す弾、その後ろを歩く葵・・・
門をくぐる弾の後、葵はなかなか入ろうとしない。

「葵、早よ入りよし!」
弾が振り返って葵に声を掛ける。
「何や・・・こう、敷居が高こうて・・・」
普段の葵からは想像もつかない煮え切らない態度である。
「当たり前やっ!」
弾は葵の腕を引っ張りながら奥へ奥へと歩みを進めて行く。

「お帰りやす。坊ちゃん!」
玄関にはヨシが出迎えていた。
「お戻りやす・・・。葵・・・、お嬢はん・・・」
出迎えたヨシの瞳に一筋の涙が流れた。
「ヨシっ! ただいま・・・っ!」
葵も胸がいっぱいになっている。
「長いお出掛けでしたなぁ」
「ヨシこそ・・・、しばらく見ん間にこんなに老けて・・・」
ヨシの皺だらけになった手を葵の手が包み込んだ。

「葵・・・、見せたいもんがある。ちょっと、来てくれへんか・・・」
手招きする弾、ヨシも黙って頷く。
二階の一室へと、葵が案内される。
「うちの部屋・・・」
思わず佇む葵。
「葵が出て行ったあの日のままや・・・。お母はん、葵がいつ戻ってきてもええようにって・・・」
弾は、部屋には入らず入口で立ったまま話している。
(・・・?)
葵は部屋の中央に置かれた炬燵の上に一冊のアルバムが置いてあるのに気付いた。
「お母はん、いつもここで葵のアルバムを見てはったんや・・・」
炬燵に座り、アルバムをめくる葵。
そして、ページをめくる手が止まった。
そこには、雪乃・弾・葵が三人で撮った写真が挟んである。
(中学の卒業のとき・・・。この後からうちは、お母はんに逆らってばかりで・・・)
この一枚だけはアルバムに貼られずに挟んであり、無意識に写真を手に取り裏返す。
そこには・・・
『お帰り、葵』と、懐かしい雪乃の文字で書かれていた。
「・・・っ! ごめん・・・。お母はん・・・、ごめんなさい・・・っ!」
写真を手に持ったまま、葵の目からは大粒の涙が止め処もなく溢れ出していた。
葵は声を押し殺して泣き続ける。
その姿を見つめながら、弾が呟く。
「お母はんが特に厳しゅうしたんは、葵に才能があったからや。悔しいけど・・・、俺よりも・・・。お母はんは、誰よりも葵に家元を継いで欲しかったんや・・・」
その呟きが葵の耳に届いたか否か。

しばらくした後、弾は泣きはらし目を真っ赤にした葵を伴い仏間に入る。
弾と葵が並んで仏壇に焼香し手を合わせた。
その傍らでは、ヨシが微笑みを浮かべて温かい視線を送っている。
「お母はん・・・。うち、弾と一緒に松永流を支えて行きます。ちょっと遅うなったけど・・・、堪忍してなぁ。天国からちゃんと見ててなぁ」
葵が仏壇に語り掛けるのを黙って聞いていた弾が正座を崩し、すっくと立ちあがった。
「葵っ! そうと決まれば舞踊の特訓や! この三代目家元が直々に稽古付けたるわっ!」
手厳しい口調ではあるが、弾の表情には安堵した笑みが浮かんでいる。
「はぁっ!? 誰にもの言うてるっ! うちはお母はんの娘であんたの姉やでっ!」
葵もいつもの勝気な口調に戻っているが、表情は穏やかだ。
「まぁまぁ、坊ちゃんもお嬢はんも、おきばりやす」
ヨシが二人に声をかけながら、見守る。
(雪乃お嬢はん、お二人ともこんなに立派に成らはりましたえ・・・。ヨシも長生きした甲斐がおましたわ・・・)

弾と葵、二人の間にあった厚い氷の壁が今、音を立てて崩れ落ち始めていた。
しがらみを捨て、本当の意味で心から分かり合えた姉と弟、七年という歳月を経て 今・・・

その頃、早瀬コンツェルンでは臨時の取締役会が開かれていた。
議題は・・・
「早瀬駆の常務取締役を解任する」
総帥 早瀬将一郎の言葉に異論を唱える者はいなかった。
「駆、常務ではなくなっても会社法の規定でお前はまだ取締役の一人だ」
将一郎の言葉は重く圧し掛かっている。
「もし、渡を取締役にしていたらお前の居場所はどこにも無かった事を忘れるな」

萬度との取引を急いだ事で失態を犯し、このままでは更に萬度からの強固な脅しに駆が屈してしまい取返しのつかない事態に陥ると危惧した将一郎の判断は正しかった。
もし、この決定が遅れれば駆は孫の脅しに屈して早瀬グループの黒ブタ運輸を覚醒剤密売ルートに利用されていただろう。
「萬度か・・・。孫王文、油断は出来んな・・・」
将一郎にとって駆と渡の問題、そして渋温泉開発を企業として萬度から受託している事をいかにして契約解除させるかが喫緊の課題であった。
(一度、ミネルヴァとも話さねばならんか・・・。渡にも・・・)

一方、駆との連絡が途切れた孫は苛立っていた。
「失敗カ・・・。クソッ!」
「会長、ブラフマーからデス・・・」
「・・・、ハヤセカケル・・・・、常務ヲ解任ダト・・・ッ。マッタク役タタズダナ」
「二月会ノ問題モ・・・」
「使い捨ての兵隊ナド、ドウデモ良イガ・・・。奴は、面倒ソウダナ・・・」
「モシモト言ウ場合モ考エテオキマスカ?」
「ソウダナ・・・、ロシアに連絡ヲ・・・」
「セルゲイ、デスカ・・・」
「モシモ・・・ダ」
「ワカリマシタ」

さて、この頃アキ達は・・・
「えっ、ゆかり先生・・・?」
「どうしたんですか、急に?」
突然、アキ達の前に姿を現したゆかり、その口から意外な事が伝えられた。
「アイドル部の活動がとても良かったという事で、学園長が特別に皆さんを旅行に招待してくださるそうです」
「今度は、どこでコンサートですか?」
渡が尋ねる。
「コンサートも実習も無しっ! 正真正銘の観光旅行よっ!」
ゆかりは気合の入ったVサインを見せる。
「やったぁ!」
アキ達は飛び上がって手を叩きあう。
「・・・で、何処に行くんですか?」
汐音が手を上げる。
「山形県の蔵王温泉よ♡ 白布さん知ってるわね?」
「はっ・・・! はいっ!」
同じ県内の温泉である、知ってて当然とも言えるのだが・・・
「丁度、樹氷祭りもあるし色々と見て回りたい所もあるからね♡」
「今回は、ゆかり先生が引率してくださるのですか?」
今度は圭が手を上げた。
「ええ、そうだけど・・・!? んっ、松永先生達の事っ?」
「弾先生と葵先生はどうするのかなって・・・」
「あらあら、すっかりと仲良くなってるのね。ちょっと妬けちゃうかも♡」
「わいは、いつでもゆかり先生が一番やでぇ」
八郎が勢いよく立ち上がる。
「黙れ、カバ!」
「いや、ワニだろ?」
優奈の突っ込みに穂波が上乗せして突っ込む。
教室に笑いの渦が巻き起こった。
(ふうん、しばらく見ないうちに上手く溶け込んでいたのね)
ゆかりもアキ達を見ながら、自然と微笑んでいた。

山形新幹線で二時間半、山形駅からバスに乗り換え小一時間。
ゆかりとアキ達一行は蔵王温泉へと到着した。

蔵王温泉は白布温泉と信夫温泉(福島県)と並ぶ奥羽三高湯と呼ばれている。
泉質は強酸性の硫黄泉であり、皮膚に良い効能があるだけでなく肌を白く滑らかにする『美人づくりの湯』としても有名である。

さて、ゆかりとアキ達が宿泊する旅館は名湯一門の蔵王温泉【鷹宮】である。
今回は私用でカトリーナが不参加となったのだが、心なしかケリアンが気落ちしているように見えるのは気のせいなのかも知れない。

「いらっしゃいませ」
女将を始め、大勢の仲居が出迎える。
「へぇ、男性の仲居さんもいるんだ~」
アキはいつもの如く珍しそうに彼方此方を見ている。
その脇で、ゆかりが女将との挨拶を交わしている。
「では、勝手を言いますが・・・」
「はい、承っておりますのでご安心ください」
「じゃあ、皆。お部屋に自分の荷物を運んでね」
ゆかりの指示でアキ達は各々の割り当てられた客室へと向かった。
部屋の割り当ては、アキ・七瀬・涼香・萌・ハンのグループと、穂波・優奈・ミッシェル・圭・汐音が同室となった。
八郎・二郎・渡・ケリアンの男性陣はいつものメンバーである。

小休止の後、ゆかりが皆を集める。
「まず、今日は夕方から【樹氷まつり~樹氷幻想回廊~】ツアーです。特別ツアーという事で、ナイトクルーザー(雪上車)に乗って見学。明日はここのオーナーの私設博物館、【戦国浪漫の里】を自由見学します。 まぁ、授業でも実習でもないから羽を伸ばして楽しんでね♡」
ゆかりが同行するのも久しぶりであり、アキ達も心穏やかに修学旅行気分を満喫していた。
「じゃあ、早速 お昼にしましょう。温蕎麦よ♡」
ほかほかと湯気の立ったニシン蕎麦に全員の歓声が上がったのは言うまでも無いだろう。

「久しぶりにテルマエ学園抜きの仕事ですねぇ・・・。三橋さん」
ロケバスのハンドルを握りながら、岩田が助手席の三橋に話しかける。
「おうっ、ようやくミネルヴァのおっさんから解放されたぜ」
三橋は超が付くほどの上機嫌であり、今にも鼻歌でも歌いだしそうだ。
「樹氷・・・、幻想回廊かぁ・・・。綺麗でしょうねぇ」
すずは樹氷まつりのパンフレットを眺めながらうっとりとしている。
「家元とイケメン君かに会えないのは、残念・・・」
三波にとっては、弾と渡が居ないことがつまらないのだろう。
DoDoTVの企画で今回はライトアップした樹氷群の撮影を行う為に来ているのだが、これから起こる運命の悪戯など誰も予想など出来る筈も無い。
更に三橋にとっては、悪夢の始まりになってしまう事などは・・・
「さて、着きましたよ」
岩田は彼らの宿泊先である、【鷺沢旅館】の玄関先にロケバス停めた。

夕方、パウダースノーが舞い始めた蔵王山麓駅にアキ達が集まっている。
「うわっ、寒いっ!」
「そう、こんなもんじゃない?」
思わぬ冷え込みに驚くアキ達だが、北国育ちの萌と涼香にとってはさほどのものとは感じていないようだ。
既に気温は、マイナス8度、これから凡そ7分をかけてロープウェイでの空中散歩を楽しむ。
眼下には、ゲレンデがライトアップされ木々が幻想的なムードを漂わせている。
しばらくするとロープウェイが空中散歩を終え、樹氷高原駅へと到着する。
駅には、【鷹宮】が手配した雪上車が待機していた。
「ようこそ、テルマエ学園の皆様。これよりナイトクルーザー(雪上車)で15分間ほど、幻想の世界へと誘わせて頂きます。こちらのデラックスクルーザーは15人乗りですが、今回は皆様の貸切です。車内はしっかりと暖房が効いておりますのでご安心下さい」
ツアーガイドの案内にアキ達はクルーザーへと向かう。

「よしっ、スタートっ!」
三橋の声とともに照明が三波に当たり、岩田とすずが両サイドからカメラを向ける。
「はいっ、DoDoTV突撃リポーターの濱崎三波です。今日は、山形県の蔵王温泉 樹氷高原駅からお送りしています」
三橋の指示で、すずが風景へとカメラを切り替える。
「えーっと、既に日も落ちまして気温は・・・、何とマイナス14度となっています。この寒さの中でもナイトクルージンクに訪れる方も多く・・・っ!?」
三波の顔が引きつった。
「あっ! あの女っ!」
「どうしたっ?  三波っ?」
風景を映していたすずのカメラ映像がクルーザーに乗り込む一団の姿をモニターに映し出していた。
「何だ? 何が?」
三橋がモニターを覗き込む。
「おいおい、勘弁してくれよ・・・。何でここに橘ゆかりが居るんだよ・・・」
三波の敵対心丸出しの声と三橋の落胆の声が重なった。
「あ~。俺たち、縁がありますねぇ」
岩田は飄々としている。
「あっ、イケメン君発見っ! 家元は・・・,居ないかぁ・・・」
すずは、渡の姿を見つけて喜んでいる。
「ははっ・・・、ははははっ・・・」
三橋はもうどうにでもなれと言う感じで力なく笑いだす。
気落ちした三橋の肩を岩田が軽く叩く。
「行きましょうっ、次はクルージングの撮影ですよ」
「そ・・・、そうだな・・・」
アキ達のクルーザーの後を、DoDoTV取材班を乗せたクルーザーも追いかけるように出発した。
「うわっ、あったかーい」
「うーっ、肺が凍るかと思った」
すずと三波は暖房の効いたクルーザーに乗りホッとしているようだ。
ただ、三波の表情は未だに硬い。
三橋も着席し、ぐるりと車内を見回す。
「あっちは貸切、こっちはスタンダート使用の36人乗りで一般客と一緒・・・。なぁ、岩田・・・?」
「何です?」
「確か、うちもテルマエ学園のグループになったんだよな・・・?」
「えっ!?  えぇ、西京新聞ごと・・・」
「世の中って不条理だよな・・・」
「三橋さん・・・。ドンマイですよっ!」
「俺はお前の性格がうらやましいよ・・・」
だがこの後、三橋が更に追い打ちをかけられる出来事が待ち受けていようとは誰も知らない。

アキ達を乗せたナイトクルーザーは樹氷群が林立している所で停車した。
ここで5分間だけ降車して間近で樹氷を見る事が出来る。
「落氷や落雪に注意してください。あまり樹氷には近づかないで下さい」
ガイドが注意喚起している声を聞きながら、各々が観賞に浸っている。
「わあ・・・、本当に幻想的・・・」
「今にも動き出しそうだね」
七瀬とアキの台詞である。
「綺麗デス・・・」
ミッシェルが呟く。
「コンナノ、初めて見たヨ・・・」
ハンも心を奪われているようだ。
「都会じゃ、雪だって珍しいのに・・・」
「すごっ!」
優奈は言葉すら出ないようだ。
「今度、五郎と見に来たいな・・・」
ケイはスマホで撮った写真を送っている、相手は五郎だろう。
「スノーモンスターって呼ばれてるんだよ」
涼香の言葉に萌と汐音が応える。
「三色ライトアップのモンスターかぁ」
「静かな雪原に現れる・・・」
男性陣も圧巻の風景にただ感動している。
「自然って、偉大だな・・・」
「ワタル、これがバウダースノー?」
渡とケリアンはただ大自然の凄さを感じているのだろう。
「こんなん、なかなか見られへんわぁ」
「全くです・・・。師匠」
流石のニッパチコンビもこの時ばかりは静かに観賞に浸っていた。
「さぁ、皆! そろそろ戻りましょっ!」
ゆかりの声で、少し名残惜しそうにしながらもクルーザーへと戻るアキ達。
自然が作り出した造形に感無量となり、樹林群を後にしたのであった。

さて、こちらはDoDoTVの取材班である。
「濱崎三波は、樹氷幻想回廊ツアーのクルーザー車中より実況しております」
岩田のカメラが三波をズームアップしている。
「堀井っ、景色をしっかり撮れよっ!」
「はいっ!」
三橋の指示ですずは車窓からの景色を撮り続けていた。
「んっ!? 誰か居ますよ・・・」
「おいおい、外はマイナス14度だぜ」
三橋も窓から外を見つめる。
「でも・・・、ほらっ! あそこにっ!」
すずの指さした先には・・・
林立する樹氷群の中に一人、赤いスキーウェアを来た女性らしき姿が見える。
「スキーヤーでしょうか?」
「んな、ばかなっ! こんな夜にここで滑るなんて自殺行為じゃないか・・・」
「でも・・・っ!」
「おいっ、車を止めろっ! 救助しないとっ!」
三橋は緊急ボタンを押そうとした。
「止めないでっ!」
車内にいた男性客が叫ぶ。
「何だってっ!? 見殺しにしろってのかっ!?」
「あれは・・・、人じゃない・・・」
「人じゃないって・・・」
三橋は、へなへなと座り込んだ。
「雪女・・・。とか?」
「まさかぁ・・・」
三波とすずも話に加わってくる。
「だって、雪女って・・・。こう、白い着物を着てて・・・」
岩田も三橋と窓の外を何度も繰り返し見ながら言う。
「あれは・・・」
男性客が話し始めた。
「あれは・・・、僕の・・・」
「彼女・・・さん・・・?」
三波の言葉にコクリと頷く。
「もう、5年にもなります。僕が彼女を無理に誘って・・・」

彼の話によると、5年前にここを訪れた二人は禁止されているにも関わらず山頂からの夜間滑走を決行したらしい。
途中で転倒したか逸れた彼女に気付かず、麓近くまで滑り降りてから彼女が居ないことに気付いたという事である。
その晩の捜索は出来ずに翌朝から捜索が開始されたが、3日たっても発見に至らなかった。
春になり雪が解けても発見されず、ただこの近くに赤いスキーゴーグルだけが落ちていたという。

「赤い、ゴーグル・・・」
「えぇ、彼女にウェアとゴーグルをセットにしてプレゼントしたんです・・・。ここに来る前に・・・」
「あっ!?」
「どうした? 堀井?」
「・・・。三橋さん・・・。あの赤いウェアの女性・・・、髪が風に靡いてましたよね・・・」
「(ゴクリ!) そっ、それがどうした?」
「ゴーグルかけてたら、髪は靡かない・・・」
三波がぽつりと言った。
三橋はワナワナと震えている。

雪女は温かい所に入ると溶けてしまうとか、人を凍らせてしまうなどの伝承が多い・・・

「じゃあ・・・、あれは・・・」
「僕に会いに来てくれたのか・・・、それとも僕に復讐に来たのか・・・」
「もう、やめてくれえぇぇぇっ!」
岩田がたまらず叫んだ瞬間 雪上車の照明が一瞬消え、冷たい一陣の風が流れた。
パッ!
直ぐに車内の照明が付いたが、さっきまでそこに居た筈の男性の姿が無い。
「おいおいおいおいっ!」
三橋は噛り付くように車窓から外を見た。
その視線の先には・・・

赤いスキーウェアを着た女性の隣にもう一つ人影が・・・
「もう・・・、駄目だ・・・」
三橋はガクンとシートに崩れ落ち失神した。

「三橋さん、三橋さんっ!」
荒々しく肩をゆすられて三橋は目を覚ます。
「もう、熟睡しないで下さいよ」
「おっ、おぉ・・・。岩田?」
「何ですか?」
「あ・・・・、あれ・・・。見たよな?」
「何を?」
「赤いスキーウェアの女だよ!なぁっ、堀井っ?」
「へっ、誰ですか? それ?」
「誰って・・・、なぁ・・・三波?」
「もう、三橋さん疲れてるんじゃないですかぁ?」
(おいおい、俺は一体、何を見たんだよ・・・)
「三橋さーん、宿に帰りますよ~!」
岩田に呼ばれ三橋は雪上車から降り、はっきりしない頭を振りながら岩田達の後を追って行った。

「あれっ、おかしいな・・・」
雪上車から全員が降りた後、車内を清掃した係員がチケットの半券を見つけた。
乗車時と降車時の人数確認の為に半券を回収していたのだが、一枚だけシートの上に残っていたのだ。
「取り忘れかな」
そう言って係員がシートにあった半券を手に取った時、それはまるで氷のように冷たかったという事である・・・

「何っこれっ!? 美味しーいっ!」
【鷹宮】へと戻ったアキ達を待っていたのは、蔵王温泉名物・ジンギスカン鍋と芋煮であった。

ジンギスカンと言えば、北海道を思い出す場合も多いが蔵王温泉ではジンギスカンが地元料理としても定着している。蔵王温泉では、昭和の初めから綿羊業が盛んであり羊の肉を使った焼肉が広まっていった。
この羊肉を焼く鍋は兜のような形をしており肉の脂を焼き落とすのに適している。
山形には、「山形鋳物」が伝統技術として伝えられておりこの技術がジンギスカン鍋にも受け継がれている。
芋煮は牛肉・里芋・ネギ・キノコ・牛蒡などを醤油ベースで煮込んだものであり、山形では秋の風物詩となっているが、冬場であっても温かさを求める食べ物として人気のある地元料理である。
こうしてアキ達は蔵王の名物と温泉を堪能したのであった。

一夜明けて、アキ達は【戦国浪漫の里】へと向かっている。
ここは、【鷹宮】の関連施設で、戦国時代を中心として近代までの文化財クラスのものが数多展示されている。
引率のゆかりが貸切バスの中で簡単な説明を行っていた。
「ここは、最上義光という武将から始まって、ずっと最上家と交流のあった全国の有力武将達に関係する物がたくさんあるのよ♡ たまには古き良き歴史に触れるのも大切な勉強ですから自由行動で見て回ってね♡」
ゆかりはアキ達に自由行動をさせるようミネルヴァより指示されていた。
(さて・・・、ここで何が起きるか・・・)

その貸切バスを追う一台の車があった事にはゆかりも気づいていない。
中では・・・
「さすがテルマエ学園の生徒ですよね。【鷹宮】」って蔵王の超有名な老舗旅館っすよ」
レンタカーのハンドルを握った岩田が話かける。
「あぁ、ばか高ぇ宿泊料なんだろうな? 俺らの泊ってる【鷺沢旅館】とは雲泥の差だぜ」
苦虫を嚙み潰したような表情で三橋が応える。
「サギっていうだけあって、三流っぽかったし・・・」
すずまでため息をついている。
「でも、どうしてあの橘ゆかりが来てるのよっ! 家元はどうしたのよっ!」
ゆかりが出てくると、どうしても刺々しくなる三波を見て、岩田も苦笑していた。

【戦国浪漫の里】はいくつかの建物に分かれておりその各々に国宝級の展示物が所狭しと陳列されている。

「ねぇ、この屏風見てっ!」
アキが七瀬と涼香を呼んだ。
金箔を豪華にあしらった屏風である。
「豪勢って言うか・・・」
「高そう・・・だね」

「ふーん、こんなの使ってたら姫様生活じゃん」
装飾品を見て回る優奈。
「おっ、こっちは・・・」
武具の展示を見て喜んでいるのは、穂波である。
「この内掛け、素敵じゃない?」
汐音が見続けているのは錦糸で織られたものである。

「これ・・・、何か引き付けられる!」
圭は天吹と呼ばれる楽器を食い入るように見つめている。
「こんなにたくさんあるなんて、凄いね~」
萌もじっと展示品に見入っている。

「ヤッバリ、ブシドー・サイコーネッ!」
ミッシェルは持ち前の日本文化贔屓が炸裂している。
(コレガ日本の文化・・・、アノ人の国の・・・)
ハンが思い出しているのは、マンゴローブのことであろうか。

一方、男性陣はと言うと・・・
「やっばり、蕎麦は旨いなぁ。二郎」
「はい、師匠。最高です」
「お前ら、見て回る前から食っててどうするんだよ・・・」
敷地に併設されたお休み処で早速、蕎麦を食べていたのである。
「オソバ、オイシイデース」
ケリアンまでもが、蕎麦ファンになるとは誰も考えられなかったのでが、生粋の大阪人である八郎までもが蕎麦蕎麦と言っている。
「わいは旨いものには、東西も国境も関係無いんや」
そう言いながら、蕎麦を頬張る。
「また。肥えるぞ・・・」
渡の言葉に一瞬ギクっとした八郎だったが・・・
「蕎麦は健康ダイエット食やから、心配せんでも大丈夫なんや」
と言い張っていた。

皆が彼方此方と自由観覧を始めた頃、DoDoTVの面々も時間をおいて【戦国浪漫の里】へと入館した。
「さぁ、何が起きるかだ」
昨晩は、意気消沈した三橋だったが一晩で立ち直ったようだ。
「今回のアイドル部はお忍び・・・、つまりミネルヴァのおっさんが何か企んでるってことだろうし・・・。家元じゃなく橘ゆかりが来てるってのも気になる・・・」
ある意味では、三橋の勘は的を得ていると言えるだろう。

「あ・・・っ、イケメン君だっ!」
すずの目がいち早く渡を捕らえた。
「やっばり、イケメンはお蕎麦食べてる姿もかっこいいわね~」
三波もすずに追従して渡を見つめている。
「岩田・・・、ハンドカメラ出せ」
「了解っす、堀井っ行くぞっ!」
岩田がすずが小型のハンドカメラを出す。
見た目はホームビデオと大差なく、ここで使っていても違和感は無い。
「撮影始めますよ」

ハンドカメラを持ち歩いてくる岩田を見つけて、ゆかりに緊張が走った。
(えっ、DoDoTV?)
ゆかりもまさかこんな所に、DoDoTVが来ているとは考えてもいなかったのだろう。
(わざと別の取材でも行かせておくべきだったか・・・)
後悔しても始まるものではない。
(彼女達に起きる事をテレビに撮られる、いや部外者に知られることすら好ましくない・・・)
本来であれば、アキ達8人だけを連れて来て男子や留学生は別行動としたかったのはやまやまだが、それではあまりにも不自然と断念したのだ。
(ここで更に邪魔が増えるのは、さすがに・・・)
ゆかりがそう感じた時だった。

「OHッ! アキッ!」
「ドウシタッ、ダイジョーブ? ダレカッ!!」 
展示室からミッシェルとハンの叫ぶ声が聞こえた。
(何かが起きたっ!?)
ゆかりは急ぎ中央の展示室へと急ぐ。
「どうしたんやぁ?」
叫び声を聞き、八郎達も駆けつける。

「何だ何だっ!大スクープかぁ?」
尋常ならざる雰囲気にマスコミ本能を刺激された三橋も急にやる気を出したようだ。
「岩田っ! 堀井っ! カメラスタンバイっ! 三波っ行くぞっ!」

先にアキの下へ駆けつけたのはゆかりだった。
「ユカリ・・・、アキガ・・・」
「どうしたの? 温水さんっ?」
ゆかりの声にアキは反応しない、ただうわ言を繰り返している。
(何が起きたの?)
ミッシェルとハンの話では、二人がこの建物に入った時に倒れているアキを発見したということであった。

「アキっ!?」
「アキちゃーんっ!?」
渡たちも駆け寄ってくる。

(おかしい・・・)
ゆかりは違和感を感じていた。
なぜなら・・・
(温水さんがこんな時、星野さんが駆けつけないなんて・・・。いや、それ以上になぜ他の七人の誰も居ないの・・・)
ゆかりはただ事ではないと考えた。
(ここに関係のない者がいるはまずい・・・)
「早瀬君、大塩君達を連れて外へ出てっ!」
「えっ、何でっ!?」
「ミッシェルとハンもっ!」
「WHY? アキが心配デース」
「ここは私に任せてっ!」
ゆかりの必死の視線に気付いたハンが気を利かせる。
「オンナノコの事、男じゃ役に立ちまセーンヨ! ネェ、ミッシェル?」
ハンの意図している事をミッシェルも感じ取っていた。
「ソウ、ここは男子禁制デース」
「うっ、そっ、そうなのか?」
渡たちは顔を見合わせながらも、ハンとミッシェルに押し出されるように出て行った。
(後は・・・)
カメラを抱え飛び込んで来たDoDoTVスタッフの前にゆかりが立ちはだかる。
「今日は中継もしてないのに何の御用かしら?」
腕組みして立ちはだかるゆかりの前に三波が一歩踏み出す。
「また出たわねっ! お邪魔虫っ!」
「邪魔なのはそちら、さっさとお引き取りくださいっ!」
「そうは行きませんっ!何が起きているのか、しっかりと見せて貰いますっ!」
ゆかりと三波の間には紅蓮の炎が燃え盛っているようにも見えた。

カチャ
音がしてドアが開いた。
(星野さん・・・)
ドアを開けて入って来たのは、七瀬だがいつもと雰囲気が違う。
(こんな時なら、温水さんに駆け寄る筈なのに・・・)
七瀬は虚ろな目をして、ぼうっとしたまま歩き続けアキの手前で止まり目を閉じる。

「み・・・、三橋さん・・・。これって・・・」
「マズイんじゃないですか・・・」
すずと岩田も異常な雰囲気に包まれていることを感じている。
(くそっ、何だか触れちゃいけねぇものに感じる・・・)
だが、三波だけはゆかりへの対抗心が強く一歩も引く気配が無い。
「帰りなさいと言ってるんですが・・・っ!」
「いいえ、帰りませんっ!」
互いに一歩も譲らない攻防が続いた。
(時間をかけすぎる訳には・・・)
ゆかりは決断した。
「わかりました、貴方達をここで解雇します」
「えッ!?」
「解雇って?」
「DoDoTVは西京新聞の子会社、その西京新聞はテルマエ学園が買収しています。つまり・・・」
「人事権も思い通りって・・・か?」
「さすが、三橋プロデューサー。話が早くて助かります」
「・・・。おい、引き上げるぞ・・・」
「三橋さんっ!?」
三波が食い下がる。
「撤収だっ!」
三橋の声にすずはカメラを肩から下す。
岩田もカメラの電源を切り、三波の肩をポンっと叩いた。
「懸命な判断です」
ゆかりは姿勢を崩さない。
「私、貴女に負けたとは思ってませんからっ!」
三波はゆかりを睨みつけ、瞳に炎を宿したまま踵を返した。
(私にもあんな時期があったわね・・・)
三波の後ろ姿を見ながら、ゆかりは過去の自分とその姿を重ねていた。
(さて、邪魔者は消えたけど・・・)
先ほど入って来た七瀬はうわ言を繰り返すアキの傍らに立ち尽くしているままである。

カチャリ
再びドアの開く音が聞こえた。
(大洗さん・・・)
今度は圭が入ってきた。
そして同じように無言で歩みを進めアキの傍らで止まる。
足音が聞こえ、次々と集まった少女達が皆一様にアキの傍らに立ち止まる。
(向坂汐音・・・、白布涼香・・・、平泉萌・・・、源口優奈・・・、そして・・・)
最後に穂波が入って来た。
(塩原穂波でラスト・・・か)
皆が七瀬と同じように立ち止まり、目を閉じた。
ゆかりは黙って事の行く末を見守っている。
(これが・・・、学園長の言っていたことなの?  何が起きるって言うの?)
ただ、時間だけが静かに過ぎて行く・・・

(・・・?)
どれくらい時間が過ぎたであろうか。
アキのうわ言が止まった。
そして、七瀬・圭・汐音・涼香・萌・優奈・穂波が薄く目を開ける。
(何が始まるの・・・?)
ゆかりは固唾を飲んで成り行きを見守っている。
しばらくすると、アキがヨロヨロと立ち上がった。
だが、誰も手助けする様子は無い。
(普段なら、考えられない光景ね・・・)
アキが立ち上がると、他の7人も動き出した。
(温水さんを中心にして、円形・・・)
ゆるゆると動く7人にアキが囲まれる形となり、皆が動きを止める。
そして・・・
アキが右手を軽く上げる。まるで裁判で宣誓するかのように・・・
(なっ、何つ!? どうしたのっ!?)
ゆかりの眼前には思いもよらない光景が繰り広げられた。
アキが軽く右手を上げると同時に他の7人は一斉に片膝をつき跪いたのである。
まるで、中世の騎士が国王に忠誠を誓うかのように・・・
そして、ゆかりの目には皆の後背に武将や姫の姿が見えていた。
(平泉萌は、佐竹義宣を、白布涼香は、上杉景勝を背負っていると言うの・・・、じゃぁ、温水さんの後ろに居るあの姫は誰・・・? 三つ葉葵の痣を持っているという事は・・・?)

アキの後背に浮かんだ姫が微笑み、他の7人に浮かんだ武将達が大きく頷き八色の光に覆われた直後・・・
バタッ!
バタバタッ!
アキ達が力なく倒れ込む。
そして・・・

「うーん・・・」
「あれっ!?」
「あたし、何してたんだろ?」
アキ達は次々と目を覚ました。
(あれは・・・、一体・・・)
ゆかりも今見ていたものが何であったのか理解出来ないでいる。
「あっ・・・、ゆかり先生?」
目を覚ましたアキがゆかりを見つけた。
「どうかしたの?」
「展示品を見てたら、急に・・・」
「うちもなんだか意識がなくなったみたいに・・・」
「わたしも・・・」
「でも、あち。何でここに居るんだ?」
誰もここで起きた事の記憶は無いようだ。
「とにかく、皆が無事で良かったわ・・・」
(やはり、他の六人の地元も調べないといけないわね・・・。学園長の想像通りになって行く・・・)
「先生?」
「ごめんなさい、表にいる皆を呼んでくるわ。皆、心配してたのよ」
ゆかりがドアを開け、外でやきもきしていた渡たちを呼び入れる。
アキのいつのも表情を見てホッとした渡、大声を上げて走り寄る八郎と二郎・・・
ケリアンは涙を流して喜んでいるが・・・、何かを察したようだ。
同じく、ハンとミッシェルもアキの無事を喜びながらも何か腑に落ちないことを考え続けていた。

所変わって、一人学園に残っていたカトリーナは、日本への渡航申請を外務省のサーバーからハッキングしていた。
「ンッ? コノ男は確カ・・・」
カトリーナの指がキーボードの上で踊る。
「セルゲイ・ドントコビッチ・・・、ナゼ日本ヘ・・・」

遥か北方の国では・・・
「セルゲイ、兄弟のタメダ。頼ムゾ・・・」
「ダー・パカーン(OK ボス)」
この日、ドモジェドヴォ空港から一人の男が日本へと向けて出国した。

ついに世界が動き出した。
テルマエ学園・早瀬コンツェルン・萬度そして謎のロシア組織、更に戦国武将達の因縁・・・
アキ達アイドル部はこれからどのような渦に巻き込まれていくのだろうか・・・

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